32 南の山の馬鹿聟

 南の山の馬鹿聟、その人よ。お嫁さんもらうことになって、祝い事にお嫁さんござったんだど。
 そんどき、雨降りで唐傘さしてござったんだど。そのためなんだか、魂消たか何だか、そんな大きい唐傘さして来て、家さ入らんと、戸の口の戸みなはずしてもらって入ったど。
 こんど嫁さんさよ、むかしだから三ツ目ずうなんだか、お招(よば)れしたんだど。そしておよばれして途中まで行って、土産持って行ったんだど。どういう風な言葉で挨拶すんべきだか分んねくてよ、そこに釣りしていた人に聞きやったんだど。そしたば釣りしていた人、
「雑魚いっぱい取っだか」
 て聞かっじゃがと思って、
「朝っぱらから、これしか取んね」
 て教えたごんだど。そしたばそいつ自分がお嫁さんの家さ行っての挨拶の言葉だと思い違いしてよ、そしてお包み出すとき、
「朝っぱらから、これしか取んね」
 て、お包み出したんだど。馬鹿聟がよ。
 初聟きたというもんで、その家のおっかさんが、団子汁して御馳走したんだってな。そしたばその団子汁、なんぼうまいと思って、自分が御馳走なって来たんだかよ、帰って来っど、また家さ行って一杯拵えてもらって食うべと思って、忘(わ)せないように、「団子団子、団子団子」て語って来たんだど。堀コあったもんだから、「どっこいしょ」と跳ねたば、「どっこいしょ、どっこいしょ」となって、そして家さ来て、
「おっかぁ、どっこいしょ拵えて呉ろ」
 て言うたど。そしたば、「どっこいしょ」と言わっだんで、なんぼおっかさだって、味付けらんねくて、どっこいしょでわかんねがったど。そうすっど、自分が本気になって来たもんだから、気まぐれにおっかさの頭叩いたら、コブ出だんだど。
「ありゃ、団子のようなコブ出た」
 て言うたば、「ああ、団子だった」て言うたど。それっきりの話だど。
(三瓶ちの)
>>置賜平野の昔話2 目次へ