7 猿と蛙(びっき)の寄合餅

 むかし、ある家で餅搗きしった音聞きつけてよ。猿と蛙が相談はじめたわけだど。
「はて、餅食いだいげんども、あの餅なじょして盗(と)って来る工面ないがんべか」
 そしたら、「雑作ない、雑作ない」猿がよ。そして、
「井戸さ入って赤ン坊の泣き真似すっから、そのうちみんなだ赤ン坊上げに井戸さ来っから、その暇に臼持(たが)ってお前逃げて行げ」
「ほだな、そうすんべ」
 そして相談きまって井戸さポンと入って行ったわけだ。そして「オガェ・オガェ」と赤ン坊の泣き真似したもんだから、
「そら、赤ン坊、井戸さ入った」
 て言うもんで、家内中餅つきやめて行ったわけだもな。そのうちに臼がらみ持って行ったんだごで、山の上さ、猿が。そして山の上さあがって待っていたれば、なかなか蛙這って来っこんだから遅いし、ピタラピタラと這い上って来たど。猿ぁずるいもんだから、その餅一人っ子でみな食いたくなったわけだ。
「やいやい、ここで相談のしなおしだ」
「また、こりゃ、何か言うな」
 と思っていたれば、やっぱりその通りだ。
「この餅一人っ子で臼がらみここから転がして、この餅を拾った人が、みな食うごど」
 と、また難題言いかけたことよ。
「どうせ、おれなど食んねんだから」と思って、「ええごで、ええごで、お前の言う通りでええごで」
 そうすっど、「ええか、一・二の三」と転がした。手は離さないで、その手、臼さたぐさってコロコロ下まで転んで行ったわけだ。そうすっど蛙は後から、ピタラピタラ這って来たらば、餅はソクッとここに落ちっだわけだ。
「いやいや、これはええがった」
 と思って、んだげんど、
「これほどのいっぱいの餅だから、一ぺん二へんに食うわけに行かんねだし、何として隠して食ったらええんか」
と思って、そっちこっちから木の葉集めて木の葉掛けて見えなくしてはぁ、何日も何日も蛙は食ったげんども、ずるいこと考えた猿、一つも食んねがったわけだ。んだから人だますもんでない。
(川井宝衛)
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