19 猫の唄

 日蔭(南陽市釜渡)という部落で、昔のことだから…。
「地節語りに来っから、ござっておくやい」
 て呼ばらっで行ったそうだ。そうすっど、婆さま一人っこばり残ってしまって、猫といだったど。ところがそのうちに夜も相当な時刻になったので、戸、ガラガランと開けて来たずも。家の人帰って来たど思って、
「何だった、今日の地節…」
 て言うたそうだ。そしたら、猫ニャーンて来たけそうだ。
「今日のは、その、今川だった」
 こういうこと、猫は言うのだど。
「ばっちゃ、ばっちゃ、おれ喋ったて言わねでおくやい。おれ喋ったて言われれば、おれもこうしていらんね、まず黙ってでおくやい」
 て言うことだったそうだ。そのうち、家の人は帰って来たど。
「恐っかない猫だ、おれ喋ったて言わねでおくやいて言うごんだ」
「ああ、そうか」
 て言うど、猫はニャァニャァて言ったけぁ、居なくなったど。そして飛んで行って高畠の先の金原の山さ立てこもったという話だ。
(中條貞次)
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