51 孫惣の親孝行

 むかしむかし、その昔、上和田の浅森に鏡孫惣という大へん親孝行な人がおりました。
 ある日、年とった父が何を思い出したのか、
「江戸見物さ行きでぇなぁ」と言ったそうです。その時、孫惣は何で出かけたらよいかと考えた末、今では乗り物もいろいろありますが、その頃はなかったので、早速、大八車をこしらえて、それにのせ、江戸見物に出かけたそうです。何十日か経(た)って、ようやく江戸の近くになったとき、
「いやいや、よくよく江戸など見たくねぇ、家さ帰る」というので、孫惣は何も言わず戻ったそうです。あたり前の人なら、「ここまで来たんだから」と文句も言うでしょうが、そこは孫惣は親孝行な人なので、すぐに大八車を引いて家に帰ったという、孫惣の親孝行話です。大八車は今でも孫惣のところにあるそうです。
話者 山木とみ (高畠町亀岡)
採集 二瓶久美子
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