46 生きかえった人

 今から百年以上も前の話だごでな。隣の部落の馬喰やってだ人のずっとずっと前の人が、日本ではじめて警官でたとき、そこの人は寒河江のあたりさ行って、駐在所さつとめったったど。その人が夜、近くのどこ見廻りしったところ、お墓がいっぱいあっとこから、何だか「しくしく」って泣く声が聞えて来んのだど。その人は恐っかねげんども、恐るおそる中の方さ行ってみたんだど。そしたけりぁ、真白い着物きた女の人がしゃがんで泣いていたんだけど。たまげでしまったげんど、仕方なくて、
「なんで、こがなどこで泣いっだごんだ」と言って見っど、その女の人は、
「なんだか分んねげんども目さめてみたら、きゅうくつだったもので、いきなり力出して起きて周りのところ、こわしてみたら、こんなどこさいたんだ」と言うなだど。んだもんで、その駐在さんは、
「お前の家、んじゃどこだごんだ」と言うと、
「こがなどこさ埋めらっちぇいだもんだもの、いまごと帰って行かんにぇ」と言って泣くもんで、
「んじゃ、おれついで行って呉(け)っから、家さ帰っぺ」て言って、帰ったんだど。そしたけりゃ、そこの家の中からは、カーン・ムニャムニャ・ナンマイダブツって聞えて来んなだど。駐在さんは「こんばんは」て言って入ってみだけりゃ、そこでは葬式やっていたんだっけど。駐在さんは、
「こっちの家で娘さんなくなられやったが」と聞いてみっど、きのう死んで、今日葬式やっていだげんども…」て言うなだど。駐在さんが、
「その娘は、まだ生きったぞ」て言って、その女の人を見せっど、みんな聞いた人たちはびっくりして、幽霊だと思ったど。んだげんどもいろいろその女の話をきいでっど本当なもので、みんな幽霊でないと分って、葬式がお祝いの式になったど。そしてその駐在さんはその娘の聟になって、暮したど。その娘は百才も長生きしたもんだったけど。んだから一日も経(た)たねうち死んだがらって埋めるもんでねぇなだ。棺桶も人やっと入れるぐらいに小さくなっているのは、埋まってがら生き返って出てこねようにするためなんだど。
話者 安部芳雄 (米沢市木和田)
採集 安部富美子
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