42 おるい峠の大蛇

 むかし、新湯と山形の境の深山に、六代目の狩人がいたんだど。狩人は六代目まで継ぐと悪いことが起ると言い伝えがあったんだど。
 狩人にはおるいという女房がいたんだど。ある日、狩人は大きな大蛇をとってきたんだど。そしてそれを味噌漬にしたんだど。んだげんども、大蛇の味噌漬は万人にまたがれないと食べらんねことになっていんだど。だから狩人は玄関の軒下に味噌漬にした大蛇の壷を埋めたんだど。数か月して、狩人が狩りに出かけるとき、女房のおるいに、どんな人が尋ねて来ても、絶対大蛇の味噌漬を出しては駄目だぞと念を押して出かけて行ったんだど。狩人の留守中に坊主が尋ねて来たんだど。坊主は、「大蛇の味噌漬は癩病に効くんだが、近所の人に聞いて来たんだ」と言うんだど。そして手をついておるいに頼んだど。おるいはあんまり言われるもんだから、ちょっとだけだったら分らないであろうと思って、一切れを分けてやったんだど。そして自分もちょっと舐めてみたんだど。そしたらそのうまいこと、うまいこと、トロトロッとしていて、止めらんねぐなったんだど。一切れ食べ、二切れ食べ、しているうちにとうとう全部食べてしまったんだど。食べ終ったとたん、ノドが乾いてきたんだど。台所に行って水を飲んだげんども、そんでも足(た)んねもんで小川に行って飲んだんだど。そんでも足んねくて、おるいは川をどんどんのぼって行ったんだど。そして大蛇になってしまったんだど。
 それから何年かして、新潟と山形の境の峠で、ゴゼ様がビワをひいて休んでいたんだど。そしたら一人のきれいな女の人が現われて、私はあなたのビワに聞き惚れてしまいました。あなたにわたしのことを教えましょ、わたしは大蛇なんです。そして今、あそこに見える山を三回半まわって住み家を作るところです。このことは、他の誰にも話してはいけません。もし話したら、あなたの生命はなくなり、すぐ死んでしまうでしょうと言って、消えてしまったんだど。ゴゼ様は恐ろしくなって、急いで峠を下って行ったんだど。そして山の中にある部落に行って、このことを話したんだど。そして大蛇は、鉄の棒が嫌いだということ聞いていたゴゼ様は、そのことも村の人に教えたんだど。するとゴゼ様はその場で死んでしまったんだど。村の人たちは、これは大変だと言って、すぐに山の周りに鉄の杭を打ったんだど。すると山はぐらぐら動き出して大蛇は死んだんだど。その大蛇は実はおるいだったんだど。だからその峠を「おるい峠」と呼ぶようになったんだど。
話者 佐々木 (米沢市峠)
採集 高野美喜子
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