37 法印と狐

 あるどこさ、法印さまがいだったど。ある日、山の原っぱのあたり通っていったけりゃ、そごんどこさ狐が昼眠していだったど。法印さまは、
「ああ、んだんだ、この狐の耳のそばで、ホラ貝吹いでおどかしてやんべ」と思って、狐の耳元でホラ貝を「ヴオー」て吹いだど。そしたけりゃ、狐は魂消てピョンピョン逃げて行ったど。
「ああ、逃げでった、逃げでった」て笑いながら、また歩きはじめて、そこから行ってしまったど。
 その日の帰り道、さっき狐どこ馬鹿にした辺りんどこ歩いでいだけりゃ、だんだんと暗くなってきたど。
「なんだべ、こがに早ぐ暗ぐなるはずねぇのに」と思っていだけりゃ、そばにあった一本の木のそばさ今までなかったお墓があったんだど。
「何だべ、こがなどこさお墓があったりして、おかしぇもんだ」て思って休んでいだけりゃ、向うの方がら葬式の行列来て、そのお墓のどこさ、ちょっと穴掘ったぐらいで死人どこ埋めて行ったんだど。
「おかしいもんだ。あがな、ちょっちょっと埋めて行ったりして」て思っていだけりゃ、そのお墓から、すうっと幽霊が出てきたど。法印さまは、「恐っかねぇ、助けて呉(け)ろ」て言って、傍の一本の木さ登ったけりゃ、幽霊が、「法印待て、法印待て」て、上さ追っかけて来っど。また上さ登って行くど「法印待て、法印待て」て、追っかけて来っけど。あんまり天辺さのぼって行ったもんだから、木の先がボギッて折(お)しょだっちぇしまったど。「ドデン」て落ちたけりゃ、法印さまは目さめて、周りも明るくなってきたど。法印さまは、
「やっぱり、狐どこいたずらするもんでねぇなぁ、さっきいたずらしたもんで、狐に化かにさっちぇしまった」て思って、家さ帰って行ったど。
話者 安部芳雄 (米沢市木和田)
採集 安部富美子
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