22 食わず女房

 あるどごさ、すごくケチな木こりがいだったけど。
 そのきこりは、「働き者で食うもの、何にも食わね嫁欲しぇ」と言っていたもんだったど。そしたけりゃ、ある人がすごく美しくて、何にも食わね嫁連(つ)っちぇ来て呉(け)っちゃど。
「飯食え」て、木こりが言ってみっけんども、「結構だっし」て言って、いっこう食わねがったど。
「あんまり何も食わねべし、病気にもなんねべし、おがしぇな」て思っていだけりゃ、ある日、隣の家の人が、木こりに、
「お前、とんだ嫁もらったもんだ、よっく見ててみろ」て言うもんで、木こりは山さ仕事さ行ぐふりして、出ていって、そっと家の屋根さ登って破風から家の中見ったったど。そうしたけりゃ、その嫁、大っけ釜さお湯わかして、それさ米いっぱい入っちぇ、飯炊いたど。そして大っけヤキメシいっぱい握ったど。そしたけりゃ、頭ぶるぶるって振ったと思ったけりゃ、頭の髪の毛の中がら、大っけ穴が出てきて、嫁の口は耳んどこまでさけでて、すごい鬼に変ったんだど。そして今作ったヤキメシをストン、ストンとその穴さ、いっぱい入っちぇ、また髪の毛をきれいに結って、また元の美しぇ嫁にもどって、鍋も飯もきれいにし始めたんだど。木こりは、
「こりゃ、すごい化けもの嫁さもらったもんだ」と思って、暗くなってから仕事から帰ってきたふりして、「只今」ていったど。
 それから三日ぐらいしてから、木こりは何とかして追い出してやんなねど思った末に、
「おれはもう年取ってしまったから、何だか知(し)ゃねげんども、こわくて働らがんにぇぐなったから、お前もうっちゃ帰ってけろはぁ」て言ったらば、嫁は、
「んじゃ、おれさ、空の桶一つ呉(く)っちぁけろ」て言ったど。木こりは何呉(く)っちぇやってもいいから、早くこの家から出でってもらいたいもんで、呉っじゃけぁ、それ背負(おぶ)っ時、
「おれ、立たんにぇから、起こして呉(け)ろ」て、嫁がいうもんで、木こりが起こして呉(け)っちぁど。そしたけりゃ、その起こして呉っちぁ拍子に、木こりがその桶の中さ入ってしまったど。嫁はみるみるうちに鬼に変ってきて、
「お前、おれの正体見たから、追い出そうとしたんだべ。おれはお前んどこ食ってやる」て言って、ドンドン、ドンドン山の中さ入って行ったど。木こりは何とかして、此処から逃げたいもんだと思って上の方見ていたけりゃ、丁度木がしだれていたとこがあったけど。「今だ」と思って、すっとその木の枝さくっついて、そして降りて逃げて行ったど。鬼は、
「お前、逃げる気が、んじゃお前んどこ、ここで食って呉れる」て言って追かけて来たど。木こりは、どうしたらええがんべと思って走って行ったけりゃ、丁度ドロドロっていう山の下の沼みたいなどこさ来たけど。そしたけりゃ、そこさヨモギとショウブがいっぱい生えっだったけど。
「よし、ここさ隠れてやっぺ」と思って隠くっちゃど。そしたけりゃ、鬼は木こりのとこ見つけたげんども、その沼みたいなとこさ入って行くと、鬼の体は腐っちぇしまうもんで、その沼みたいな周りをぐるぐるまわって、木こりどこ食ってやっぺと思っていだったげんども、なんとしても捕えらんにゃえもんで、仕方なく山さ帰って行ったど。そして木こりは助かって、
「二度と何にも食わねくて、働く嫁ほしいなんて言うもんでねぇ。普通の嫁もらうもんだ」と思ったど。
 んだから、五月節句には屋根によもぎとしょうぶをさして、菖蒲酒のんで、菖蒲湯さ入るもんだど。むかしは女は鬼だっていだったもんだど。んだから男はよもぎと菖蒲をおいて、鬼みだいな女が来ねようにしたもんだど。
話者 安部芳雄(米沢市木和田)
採集 安部富美子
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