15 三枚のお札むかし、ある寺さ、とっても小(ち)っちゃくてめんごい小僧っこいだっけど。和尚さまに、「お前、山のうらのうらの部落さいって、お経上げて来て呉ろ」って言わっちゃもんで小僧は「はい」て言って、小(ち)っちゃいワラジ履いでいると、和尚さまは、 「ちょっと待て、このお札三枚呉っちぇやっから、途中で殺されそうなことに出会ったら、一枚ぶん投げて逃げろ、そして三枚ぶん投げっど、助かって帰って来られっから」て、お札を三枚ふところさ入(え)っで出でいったど。そしてずっとずっと歩いで行くげんども、あだりは真っ暗ぐなって、 「寺さも帰らんねし、部落さも着かねし、困ったもんだ」と思っていっど、遠くさ灯りがちらちらって見えるもんで、 「あっ、あそごの家さ泊めてもらおう」と思って、 「こんばんは、今晩ここに泊めてください」て言うど、中からすごいガラガラ声で、ばばが、「ああ、入ってこい!」て言うもんで入って行って、火の傍さ行ってみっど、そのばばはすごい顔した鬼婆だったど。小僧は、「こりゃ、恐っかねばばんどこさ来たもんだ」て思っていだら、鬼婆は台所さ行って、何かとぎ始めたど。小僧はなんだと思ってちっと戸を開けて見っど、大きい出刃包丁をとぎ方して、 「いい、うまそうな小僧来たもんだ。あいつを煮て食ったらなんぼかうまいべな」 て、言ってだっけど。そして、大きな鍋さお湯わかしていだったけど。小僧は賢いもんで考えたど。 「おれ、便所さ行きたくなったから、便所貸してください」て言うど、ばばは、「待ってろ」言って、小僧の腰さひもつけて便所さやったど。ちっとすっど、「小僧まだか」て言うど、小僧は小(ち)っちゃい声で「まだだっし」て言うなだど。そして腰のひもぐいぐいって引っぱんなだど。何回もばばが言ううちに小僧はそっとひもをはずして便所のとってさ縛って、バンバン逃げて行ったど。そしてばばはまた「まだか」て、ひも引っぱったら、把手のひも引っぱっらっちぇ、バダンバダンて音するもんだから、ばばは、「あっ、あの小僧逃げて行った」て言って、小僧んどこ、どんどん追っかけで行ったど。小僧はあんまり小(ち)っちゃいもんで、なんぼ走っても、ばばに追っかけらっちゃなだど。小僧はお札のこと思い出して、その一枚を「大(お)っけ、大っけ山できろ」て言うて投げっど、ばばと小僧の間さ、大っけ大っけ山できだんだど。んだげんども、ばばは、 「こがな山、すぐ押されっぺちぇ」て言って、どんどん登って、また小僧んどこさ追っかけて来んなだど。んだもんで、こんどは二枚目のおふだを出して、 「大(お)っけ大っけ川できろ」て言って投げっと、また小僧のうしろさ大っけ川出きだど。そんじぇも、ばばは着物の裾をたぐり上げて、 「こがな川すぐに渡られんべちぇ」て言って、ザブザブと漕いで、また小僧さ追っかけて来たど。 小僧、これが最後のお札だと思って、「火が点いて、どんどん、どんどん燃えろ」って言ってお札投げっど、そごらの原っぱがボンボン燃えで来たど。そしたけりゃ、ばばは焼けて死んでしまったど。んだからその小僧は、後は何にも無くお経上げて、寺さ帰って来たもんだけど。んだからお札じゃ大事にするもんだ。 |
話者 安部芳雄(米沢市木和田) 採集 安部富美子 |
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