9 虎 猫島川(米沢市簗沢)の権助つう家で、虎猫飼ってだったど。そしてその虎猫、お正月のとき、魚やきしったば、そいつ盗ったんだど。そうしっど、そこの家のじじ、怒って、ぶん殴ぐったば、流し(台所)の落口から逃げでったど。そして一週間ぐらい経ったば、じじ、便所さいだば、その猫、ニャーニャーて来たんだど。 「何だ、まだ来しゃがったが」て、じゃみだば(がみがみ言ったら)、それからは影も姿も見えなくなったど。 何年経ってからだか、じじ死んだど。葬式の日、すごくまっ暗にくもって来たんだど。そうしたけば、和尚さま、お経詠んでっどき、誰も何もしないげんども棺のふたがガバーッと開いだけど。そして上の方さ吊しあがったど。その和尚さま名僧だったほどに、 「とらや、とらや、棺おろせ、とらやとらや、棺おろせ」て、お経詠んだげば、棺のふた落ちて、パーッと明るくなって、とどこおりなく葬式はすませたど。 そして一回忌んとき、死んだじじの娘、おぼこ歩かせて、招ばっちぇ来たど。そしたば途中でカラッと晴れた空、まっ暗になったど。そしたばおぼこ、 「かあちゃん、おっかね、おっかね」て言うけど。 「何、恐っかねごんだ、雨降っど悪(わ)りがら、早く行ぐごんだはぁ」て言うげんども、おぼこ、まあだ、「おっかね、おっかね」て言うけど。そしたば、今までよりまっ暗になって何も見えねくて、おぼこ、「おっかね…」て泣き泣きさらわっちぇったど。家さ来て、大さわぎになって、あっちこっち探したけば、ユウジングラつう沢んどこに、太い枯木さ着物だけ引っかかってだけど。そしてそさ行ってみだば、その木の下に、草履、ちゃんと脱がって、おぼこいねがったど。猫股に食わっちゃつうごどだべな。んだからお年取りに猫ざぁ、しぇめねもんだど。そこの家の流しは、水の落口はあっけんども、さっぱし水流んにぇど、みなしみ込んで行ぐなだど。猫知ってんなだべがな。それからそこの家では虎猫飼わねぐなったど。 |
話者 梅津きくみ(米沢市古志田) 採集 梅津紀子 |
>>置賜のむかし 目次へ |