25 お糸唐糸親父、参宮に行っていない時、そのガガがめんごくなくて、お糸を山さ生き埋めにして殺してしまいたくて、親ぁいない時に片付けたくて、その妹の唐糸に言うたどな。「唐糸、唐糸。姉さ、山さ人頼んで埋めてもらうから、黙ってろよ」 て、ガガが教えたど。そうすっど、 「姉さ姉さ、山奥さ持って行って埋めてくると言うから、お父(と)っつぁま来るまで生きてろよ。おれ、ヤキメシいっぱい持って行(い)んから、ヤキメシ持って行ってなぁ、箱の中さ穴あけて。このケシの花咲いた頃、迎えに行ってもらうから、んだから、花の種子呉れっから、ここから、ポロポロと落して行げよ」 て、姉さ言うたど。そしたら、「そうか」と、その種もらって、箱さ入っで…。 そして、銭とり(頼まれ人)というんだか、奥山さ連(せ)て行ったど。そして奥山さずうっと連(せ)て行って、ぐるぐると二度廻って埋めて呉(く)ろって…。 そうすっど、ケシの種子、ぐるぐると廻ったどこさ撒いだど。すっど、ケシの花、ぺろっと咲いだど。 「ケシの花咲いたから、姉さ生きっだべから、ヤキメシ持ってだべし…」 て、ケシの花咲いたどこ尋ねて行ったど。唐糸、ずうっと行ってみたれば、その山の頂上さ、いっぱいケシの花咲いっだけど。 「ここにいたもんだ」 どて、それから一生懸命掘って見たば、桶みたいなもの出たとな。そして、 「姉さ、生きっだか」 というたば、「生きっだ」て言うたど。そして、「ヤキメシ食(く)たべ」と言うたば、「まだ少(ちい)と残ってだ」 て、いだっけど。そしてそれから、 「また家さ行くじど殺されっから、姉さど、どこさか(どこかへ)二人で行ってはぁ、家さ行かねぜはぁ」 て言うたど。そして、 「どこさか行って二人で稼いでいたらば、食って行かれんべから…」 て、里さ出てきたど。そしたば大きい家あったもんだから、 「御飯炊きに、二人、下女置いてもらわれんまいか」 て言うたらば、 「ええどこでない、二人姉妹だごんだれば、二人で居て呉(く)ろ」 て、そう言わっで、一年も二年もいたそうだ。 そうしたところぁ、親父、参宮さ行って帰って来たど。そしてお糸のお土産に簪、唐糸のお土産には鏡買って来てくっじゃど。 「子どもら、どこさ行った、ガガ」 て。そしたば、 「子どもら、何かあって遊びに行った」 て、てんつこいだってよ。「今に来っから…」て、ガガ言うたってよ。そして何日(いつか)もよっても来ねもんだから、 「どこさ行ったもんだか」 て言うたら、 「どこさ行ったか知(し)んね」 て、山さ連(せ)て行って殺したって言わねんだど。それから、 「どこにかいるべからなぁ」 て、親父ぁ思って泣いで、目ぁ見えなくなったどはぁ。泣き目で、目ぁくっついて。 お糸唐糸いたらば この目、ぱっちり開くべぞよ て、こんど六部になって世間廻ったごんだど。その鏡と簪持(たが)ってなぁ。そして何年もかかって、その大きい家さ行ったごんだど。廻りまわってな。そしたれば家さいたけど。 「姉さ、姉さ、お父(と)っつぁまに似たな、乞食(ほいと)だげんどもなぁ、よっく聞いでみっじど、〈お糸唐糸いたらば、この目、ぱっちり開くべぞよ〉て、乞食だげども、本当に似たなだぜ、あの、出てみろ」 て言うたど。そしたば、 「お父っつあ、こがえなどこさ来るよう、あんめえちゃえ、乞食だもの、他人だべ」 「ほだて、異(い)なこと語んぜ」 そして聞いてみたら、親父だったどもな。 「お父っつぁまでないか」 て、こう言うたど。そしたば、 「お糸唐糸だか」「お糸唐糸だ」て言うたってよ。「目見えなくなったのか」て言うたら、「われざぁ、いないて言うもんだから、おれ泣いて、目ぁくっついたんだから、二人、そっちの目とこっちの目、なめて呉(け)ろ」て言うたど。 そして二人は、目なめて呉(く)っじゃどころぁ、病気の目でないから、目開いだって。そして、目開いて、こういうわけでだって教えたべ。そしたら、 「ガガが、死んだても言わね、殺したっても言わね。何処さか行ったっておれさ言うて、それそのような目に合せたことか、あがなガガ打ち殺して呉れっから」 そして三人で、まず来たど。 「いやいや、なんぼボーロクおっかさだって、おっかさ殺さねで呉ろ」 て帰って来たど。そしたばガガ平気で家にいた。 「どこに居たったい?」 て、平気だったって。 「あのガガ、太いガガだ。ぶち殺してくれっから…」 て言うたってよ。そしたば、 「殺さねようにばりして呉ろ。おれここに居ねがら、殺さねでばり呉(け)ろ」 て、ガガは帰って行って、三人で暮らしたって、どーびん。 |
(安部はつよ) |
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