20 文福茶釜まいど、古金屋(骨董屋)、毎日来て、万世の山道さ行くとき、そこの子どもら三人で、狐こ取ってせめっだけど。そうすっど、古金屋、「お前だ、狐せめて殺したったて、何にもなんめえから、おれ買って行(い)んから、おれに売ってやって呉(く)ろ」 「なんぼに買って行(い)んごんだ」 「なんぼ、三十銭か、十銭ずつ分けたら三十銭か、三人で分けっから、学校のものでも買ったらええべから、売ってやんねが」 て言うたば、 「ほだな、ほんじゃ、売ってやっかな」 て言うたってな。そして狐こ買って、 「狐こ狐こ、親たちなんぼ尋ねったか知んねぇから、親たちの目から離れんなよ。こんど獲られっど殺されんだから、離んねようにしていろよ」 て、助けて、古金屋ざぁ行ったど。そうすっど狐こぁ見い見い逃げて行って、またそこ三日四日もよって(経って)から通ったってよ。こんど親狐が出て、 「おら子ども助けてもらったの、お前だ。何も恩返して、さんねから、文福茶釜に化げっから、水入っだり、お湯入っだりしねえどこの、ええどこさ売ってくろ」 て、そう言い言いしたど。 「ええな文福茶釜に化けっから。ほだげんど、お湯入っだり水入っだりしないどこさ」 そして見っだけぁ、コロコロと高いとこから三べんばり転んで、いや、きれいな銀の茶釜に化げだそうだ。 そうすっじど、大きいお寺さまの和尚さま、道具好きでな、さまざまのものいっぱい飾って、そしてなぐさんでいる人いだったて。そこだらば、お湯入っだり水入っだりしねから、そこさ売って呉れっかと考えて、そこさ行ったど。そうすっど、 「いやいや、めったにないええ品物ぁ出たから、和尚さま見ておくやい」 「いやいや、珍らしい珍らしい。こがえな美しい釜、文福茶釜というもんだ。これ見たことない」 「いや、こがえな釜コは出などしねもんだ、唄に〈銀の茶釜のあるような話だ、開けてみたらばカゲもない〉というのもあんだ。こげな釜コあっどこぁタンと(そう多くは)ないもんだ」 て、古金屋は言うたってよ。そしてから、和尚さまさ売って、儲師だから、銭いっぱい取ったべ。 和尚さま、ええ釜コ、そがえに並べても見て、むかしだからだげども、三日四日並べてだべげど、ちいと埃っぽくなったから、 「小僧、小僧、ちいと埃っぽくなったから、磨いてこい」 て、和尚さま言うたど。そうすっど「ハイ」て、小僧っ子は、言わっだもんだから、お湯も水も入れんなて言わっだげんども、忘れたべはぁ、そげなこと。そしてきれいにしたいもんだから、磨いて来たらば、なぁ、釜コ磨きに小僧ぁ、 コッチコチのコッチコチ コッチコチのコッチコチ て磨いたんだど。そうすっど、 イタイゾ、小僧っ子、そっと磨(と)げ、小僧っ子 イタイゾ、小僧っ子、そっと磨げ、小僧っ子 て言うたもな。その釜コ。 「はぁ、奇態なごんだな、こがえなこと語るもの、ほんじゃ磨かねでやめて行んかなぁ」 そして、きれいに拭いてな、そして、 「和尚さま、この釜コ生きてんだ」 て言うど、 「釜コだから、んだごで、生きてもいっこで、高い釜コだし、そがいに美しい珍しい釜コないもんだ、高い釜コだから、念が入って魂入ったというごんだごで」 そう、和尚さま言うて、「飾っておけ」て飾っておいたど。そうすっど朝げ、釜コないごんだどもな。釜コぁない、盗まっじゃ、んねが奇態なごんだ。昨日(きんな)まで洗っていた釜コだもの、盗んで行く人もあんまいし、こさ(此処に)飾っていた釜コだものどこさも行くざぁないと思って、どこさも逃げて行くとこないし、誰も来ないし…といるうち、流しの高窓になってるどこ、骨一本おしょって(折って)穴開いっだずも。そこさ狐の毛いっぱい食っ付いっだど。 |
(安部はつよ) |
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