16 いびり焼き(狐退治)

 夕方、用達しから帰ろうと歩いていると、少し向うの林の方に狐がいた。
「何してるんだべ」
 て立止って見ていると、頭の上に桟(たら)俵(ばし)を上げた。「おかしいな」と、なおも見ていると、きれいな姉さまになった。こんどは木の葉をくわえて、後を振向くと赤ん坊をおぶったネンネコ姿になり、すたすた歩き出した。急いで追いついて、
「もしもし、尻尾が見えるぜ」
 というと、「あら」とびっくりした声を出して振り返えった。
「おめえ、そげな下手では人ぁ化かにされないぞ」
 とおどした。
「どんな化け方したらええべ」
「ほだな。教えてもええげんども、…」
 と思案して、
「お前ひとりに教えてもつまらないから、あまた眷属を連れてこい、そしたら教えてもええ」
 と約束した。狐も大喜びで、こんどは大晴れで、ピョンピョン村の中にとんで行った。
 さあて約束の日の夜になっど、集って来た、来た。赤狐・黒狐に、それに年とったのに、若いのに、あまた集まった。狐共もこんどは尻尾を出さずに化けられると大喜び、頃合いを見て、
「よいか、みな集まったか、これから始めるが、ただことわっておくが、仲々むずかしい法だから、なんぼ切なくとも、よいというまで我慢するんだぞ」
 と申渡したど。狐のうなずくのを見て、大きな袋を持ち出した。
「それでは、これに入ろ。せまくとも堪えるように」
 と、袋の口を開けた。不思議なおまじないだなぁと思ったが、みなゾロゾロ入った。みんな入ったので、ギッシリ口をしめて、太い綱で結えてしまった。
「いいか、ちっとばり熱いくても我慢するんだぞ」
 と、焚きものを山のようにくべて、どんどん焚きはじめた。ほどよく燃え始めたところで、あちこちから掻き集めたナンバンをどっさり火の中さ投げ入れたど。狐もはじめのうちはじいっと我慢していたが、我慢し切れなくなって、
「あついあつい、からいからい」
 と、家の中いっぱいにひびき渡るような悲鳴をあげていたが、とうとう一尾死に、二尾死にして、みんなナンバンのむしやきになってしまった。
 それからは、あんまりあくどいいたずらしなかったど。
(安部はつよ)
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