14 上には上が

 ある物ぐさ太郎が旅をしていた。昼間にもなったので、背中から握り飯をおろして食うかとしたが、何としてもめんどうくさい。そのうち何とかなるべえと空(すき)腹をこらえて旅を続けた。そしたら、向うからやはり旅人がやって来た。笠をかぶり、合羽をつけて、やっぱり同じ旅姿、見たら口を思い切りアーンと開けたまま、すたすたとやって来る。
「ハハァ、大分腹がすいていると見える」
 と、独り合点して近づいた。
「もしもし、旅の方、大そうひもじそうで、わしの握り飯半分上げるから、背中から降して下され」
 と頼み込んだ。すると、向うの旅人、はじめてこっちを見て、ふんぜんとして、
「馬鹿なことを言わっしゃれ、わしはな、笠の緒がゆるんだが、締め直すのがめんどうだから、アゴで押えているんだ」
 と通りすぎてしまったど。
>>お糸唐糸 目次へ