3 長い名むかしあるところに、夫婦の者が住んでいた。夫婦の仲もよいし、相当に財産もあって、不自由なく暮していたが、ただ一つ困ったことは、生れる子も育たず早死してしまうことだった。子を持つ親としてこんな悲しいことはない。あっちの神さま、こっちの法印さまとお祈りしてもらうが、いっこうに効き目がない。それがあるとき、吉兆のよい長い名前をつけると、長命するということを聞いたので、早速、物識りのところに行って、訳を話して、 「どうか吉兆のよい、長い名前をつけて下され」 と、この間生れた赤子の名前をつけて呉れるように熱心に頼み込んだ。その人もすっかり同情して、〝良い長い名前〟と考え込んだが、 「ああ、そんじゃ、長吉ってどうだい」 というのだった。 「それではあんまりあっけない」 「鶴亀は縁起がええんだぜ」 もっと長いのが欲しいというので、しばらく考えていて、付けたのが、『大阪播磨の守茶碗ちゃんころ左ヱ門鶴亀』という、とんでもない名前。そんでも大喜びで紙に書いてもらって帰った。 御産祝に来て、「お名前は?」と聞かれると、自慢たらたら御披露に及ぶのが「大阪播磨の守…」。その名前が効いたか、今度は丈夫で虫気もなく父母の愛情を一心に集めて育ち、よちよち歩きも過ぎ早くも三才になった。それがある日わずか目を離しているうちに、井戸に落ちてしまった。深い井戸なので、すぐ飛込むわけにも行かない。梯子より外ない。隣家に借りに行って、 「大阪播磨の守茶碗ちゃんころ左ヱ門鶴亀ぁ井戸さ落ちたから、梯子貸しておこやれ」 と、せき込んで頼むが、ツンボのおじいさんには仲々通じない。「何?何?」と押しなおして聞かれると、律儀者のこととて、「大阪播磨の守…」を繰返す。とうとう業を煮やして、むりに梯子を借り出して井戸に降りた時には、時すでにおそく、小さい魂ははやこと切れていた。 (「イッチョギッチョ、チョギッチョ、カイポタナツリ、スボクグリ又次郎」というのを当時聞いたという) |
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