かっこ鳥春になっど、かっこ鳥ざぁ出てくるわけだね。かっこ鳥鳴く時期になっどよ、山の方にヌカ蚊ていうの居んのよ、細かい、ちょっと止まったて見えないような。すごく羽根のヒカヒカていう蚊いるのよ。それ、田植んどきになっど出んのよ。ほしてカッコー、カッコーて鳴くど、一回カッコーて鳴くど、千万匹のヌカ蚊が出んなだど。んだから、カッコー、ブウ。カッコー、ブウていうど、その度に千万匹も出んなだから、田舎の方では頭に松明(たいまつ)、杉の木の皮を細くして巻いたものに火つけて、ヌカ蚊のいるどこの田植えをしたもんだ。平地にはいなくて、谷間のどこに余計にいるんだな。「ああ、カッコー鳥出たな、ヌカ蚊出るな」 そういうたもんだ。 これは実際にある話だげんど、山奥さ行ぐどよ、悲しい声出して、雨降りのときにだけ鳴く鳥あるな。ホトトギスと同じで、口から血出して鳴く話あるな。子どもを逝くして、雨降りのどんよりした時でないど、山奥にきりいない鳥なんだ。その鳥鳴くど、おらだも山さ働きに行くの嫌んだなと思ったもんだげんども、鳴き声は忘っだな。 |
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