食わず女房

 むかしむかし、あるところに、一人ばり暮しているええ男いたんだど。ほうしたれば働き者で一生懸命働いていたんだって。
 ある時、娘が尋ねて来て、
「まず、おれば嫁にもらって呉らんねが」
 て言うけども、
「嫁なのもらわんね」
 と。ほしたれば、
「おれ、一生懸命、御飯なの食わねったてええから、稼ぐから」
 て、それで一生懸命に稼いでけだんだど。毎日毎日、息子働きに行ってるわけだ。ほしたれば、嫁はいつでも御飯食べねんだてよ。食べねもんだから、不思議に思っていたんだってよ。ほして、ある時、息子不思議して稼ぎに行くふりして屋根裏さ上がって眺めていだら、松(まつ)節(ぷし)孔一つあったんだって。ほっからのぞっていたらば、お昼ごろになったれば、三升炊きさ、御飯炊いで、おにぎり何十と作ったんだってよ。ほして髪、ちゃんと、昔だから結ってだもんだから、そいつ、ばらっと解いで、オニギリ、すとんすとん、すとんと皆入れて、旦那が帰るまでちゃんと髪結って、ほして知らん顔しったんだけど。
 いよいよ、五月節句になるんだど。
「んだから、お前も家さ泊りに行って来たらええんじゃないか」
「いや、行がんたて、ええ」
「初めての里帰りみたいなもんだから、行くべ」
 と。ほしてまず御馳走作って、少しもって出かけだんだど。ほしたれば、少しもって出かけだんだど。ほしたれば、イグイグ、イグイグと山の中さ行ったんだってよ。ほしたれば、ここまで来たれば、
「おれは本当は、ここの大蛇だ。んだげんどもお前と一緒になてがらは、大蛇なて言(や)ねでいだげんど、家さ行ってこい、行ってこいて言うもんだから来たんだげんども、行って、お前ば食べっだくて来たんだ」
 ていう。そして大蛇の姿になったんだど。ほしてこんど、自分が大蛇になって、大きい沼らしいどこさ、男ばも引きこもうとしたんだど。したら、ほん時、男は恐かないていうて、ここに菖蒲とよもぎ、いっぱい茂ってくちゃくちゃというところにいだったそうだ。それで菖蒲とよもぎの間さ隠っだから菖蒲とよもぎは五月節句に屋根さ、必ずさすんだど。そして命からがら逃げてきたんだど、その男がよ。

 まま子いじめの話もあったなぁ。〈萩の橋わたるどて、すべって転んで死んだどや〉ていう歌のある話あったな。そんでも思い出さんね。この次にするべなぁ。
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