17 胡瓜姫こむがしあったけど。むがしあるどさ、爺ど婆んばいだけど。ほうしてなー、ある時 (づぎ) 、爺ぁ山さ木伐 りん行たど。婆んば、川さ洗濯 (へんたぐ) 行 (え) たど。婆んば川で洗濯しったば、上 (かみ) の方がら、 大っき胡瓜ぁ流っできたけど。婆んば、どでして、 「なんだて大っき胡瓜だごど。なんぼが美味 (んめあえ) んだが」 て、ほの胡瓜、家 (え) さ持てきて、 「爺ぁ、この暑 (あづ) 時 (づぎ) 、山さ行たあだはげぁぇ、なんぼがのどぁ乾 (かわ) ぇだて来んべぁ。 この胡瓜食 (か) へだら喜ぶべな」 て、爺ぁ来んな待 (まぢ) っだど。ほのうづん、爺ぁ、 「あー、暑 (あつ) 々。今日ぁ、めっぽう暑 (あつ) 日 (ひ) だ」 て、大汗かぁぇで来たけど。ほんで婆んばぁ、 「まずまず、なんぼが暑がったんだがな、爺。この胡瓜食 (か) へんべど思 (も) て待 (まぢ) っだ」 て、ほの大っき胡瓜見 (め) へだど。ほしたば爺ぁたまげで、 「なえだや、ぜぇぶん大っき胡瓜だおんだな。こんげぁぇ大っき胡瓜見だごどぁ ねぁ、どごがら持てきたおんだや」 て聞ぐけど。ほんで婆さまぁ、 「川さ洗濯 (へんたぐ) 行 (え) たば、上の方がら流っできたぁだけ。あんまり美味 (んめあえ) そだし、爺ぁ、 のどかわぁぇだて来んべはげぁぇ、二人して、食うべど思て、とてだぁだ」 て、婆んば、ほの胡瓜、まねぁ板さあげで、切 (はや) すべど思 (も) て、包丁 (ほじょ) 当でだば、ま だ切 (はや) さねぁうづん胡瓜ぁ真中がら割っで女おぼこぁ、 「おほげぁぇ、おほげぁぇ」 て、生 (んま) っできたけど。爺ど婆んばどでして、どでして、腰抜がすどごでぁぇっ たけど。 んでも、爺ど婆んばどさ、子供いねぁべ、ほれさめんごげだ赤子おぼごだべ。 んだおんだはげぁぇ、爺ど婆んば喜 (よろご) で、 「神さま、俺だおぼごぁいねぁぇおんだはげぁぇ、授げでくっだぁだべ」 て、二人ぁうんと喜だけど。 「なー爺、おぼこ授げでもらてえがったな。なえて名前つけだらえがべ」 て、爺ど相談したば、爺ぁ、 「んだなー。んでぁ胡瓜がら生っだあだはげぁぇ、胡瓜姫こどでも付げっが」 て言 (ゆ) たば、婆んば、 「んだな爺、ほれぁええ名前だ。ほれぁえ、ほれぁえ」 て、二人ぁ、ほの赤子さ、胡瓜姫こど名前つけで、大事 (であえず) んして育でだけど。 ほうしてなー。ほれがら胡瓜姫こぁ、だんだん大っきぐなて、十二、三にもなっ ど、婆んば、胡瓜姫ごぁどさ、機織教へだど。始めのうづぁ下手で、ぎごら、ば だら、どーん。ぎごら、ばだら、どーんて、音までえぐねぁがったども、十五、 六んなたば上手んなて、毎日機織小屋で、きっこ、ぱったん、とーん。きっこ、 ぱったん、とーんて、機織してんなだけど。 ある時 (づぎ) 、爺ど婆んば、山の畑さ仕事しん行 (え) ぐごどんなて、胡瓜姫こぁどご小屋 さ置えで出がげだけど。ほうして、出がげしめぁぇん、胡瓜姫こぁどさ、 「胡瓜姫こ、胡瓜姫こ。機織小屋さ心張棒(つっぱり) かておえで、誰ぁ来たたて決して開げ んなよ。誰が何が言 (ゆ) たら、爺ど婆んばになんぼしたて開げんなて言 (ゆ) わっだはげぁぇ、 開げらんねぁなだて言 (ゆ) え」 て、何べんも言 (ゆ) て、山さ行たけど。 ほうしてなー、暫ぐすっど、ほの小屋さ猿ぁ来たけど。ほうして、 「胡瓜姫こ、胡瓜姫こ。今日ぁええ天気だはげぁぇ、長者野さ桃食いん行がねぁ が。丁度食いあんべだべし、遊 (あす) びながら行 (え) ぐべや」 ていうけど。んでも胡瓜姫こぁ、 「機織しねぁんねぁさげぁぇ、行 (え) がんねぁ」 て言 (ゆ) たど。ほしたば猿ぁ、 「機織なの何時でも出来 (げ) んべや。まず、この戸開げでみろちゃ」 つけど。ほんで胡瓜姫こぁ、 「んだて、俺ぁ家の爺さまど婆さまぁ、誰ぁ来たて、こご開げんなて言 (ゆ) てえたは げぁぇ、開げらんねぁ」て言 (ゆ) たど。ほしたば猿ぁ、 「ほんたごど言 (ゆ) わねぁで、こんげぁぇええ天気だおんだおん、遊びん行 (え) てみろちゃ や。まず、この戸開げでみろや」 ていうけど。んでも胡瓜姫こぁ、 「んだて、開げんなて言 (ゆ) わっだあだはげぁぇ、開げらんねぁ」 て言 (ゆ) たど。ほしたば猿ぁ、 「ほんだごど言 (ゆ) わねぁで、まず、早く開げろ。折 (へっ) 角、遊山さもてきた小豆餅 (もづ) ぁ、落 (おつ) んぜぁは」 ていうけど。ほんで胡瓜姫こぁ、急いで戸開げでしまたけどは。猿に嘘 (ずほ) こがっ だぁだど。 ほうすっど、猿ぁ、わらわらと入 (へあ) て来て、胡瓜姫こぁ嫌 (や) だ嫌 (や) だていうな、背負 (んぷ) て、 長者野さ連 (つ) で行 (え) て、桃ぬ木 (ぎ) んどさ下ろしたけど。ほうして、猿ぁ桃ぬ木さ上がて行 (え) て、自分 (おわ) ばりんめぁぇ桃食てんなだけど。ほんで胡瓜姫こぁ、 「自分 (おわ) ばり食 (か) ねで、俺ぁどさも一つ食 (か) へろや」て言 (ゆ) たば、「ほれっ」ていうど、青 くて固 (かで) ぁぇ桃ばり、胡瓜姫こぁどさ投げでよごしたけど。ほんで胡瓜姫こぁ、 「こんた青え桃なの固 (かで) ぁぇくて食 (か) んねぁ。もとんめぁぇなよごへ」 て言 (ゆ) たば、猿ぁ怒 (ごしえあ) で、 「これでも食 (く) んだ」 ていうど、固ぁぇ青え桃、胡瓜姫こぁどさ、ばえんばえんど投 (ぶか) らでよごしたけ ど。ほの桃ぁ、胡瓜姫こぁ頭やら体中さ当たべ、固ぁぇ桃なおんだおん、ほんで 胡瓜姫こぁ死でしまたけどは。 ほうすっど猿ぁ、桃ぬ木がら下りで来て、胡瓜姫こぁ顔 (つら) の皮剥がして、ほれ自分 (おわ) かぷて、胡瓜姫こぁ着物きて、胡瓜姫こん化げだけど。 ほうして知らねぁふりして、機屋さ行 (え) て、ぎごら、ばだら、どーん。ぎごら、 ばだら、どーんて機織りしったけど。 ほうしているうづん、爺ど婆んば、夜あがりして来たけど。ほうして、猿ぁ機 織る音聞で、二人ぁ、なえだて今日の胡瓜姫こぁ、めっぽう機織、下手だおんだ て話しったけど。ほれで婆んば、 「胡瓜姫こ胡瓜姫こ。今日ぁ、めっぽう機織下手だおんだ。どごがえぐねぁなが」 て聞だど。ほしたば、猿の化げだ胡瓜姫こぁ、 「どごもえぐねぁぐねぁ」 ていうずおん。ほうして、まだ、ぎごら、ばだら、どーん。ぎごら、ばだら、 どーんて、まずまず下手だ音さへっずおん。ほんで二人 (したり) ぁ入 (へあ) て見だど。ほしたば 胡瓜姫ごぁ顔 (つら) しんべし、着物も胡瓜姫こぁ何時も着てる着物きてんだし、変りぁ ねぁども、ないしたて下手だ機織するおんだはげぁぇ、なんだが何時 (いっつ) もど、どご がちがうど思 (も) て見っだど。ほうしていたば、ほごの窓んどさ、鳥こぁきて、 胡瓜姫こぁのった車がら ただ 猿に 落(おど)さっだ 胡瓜姫こぁのった車がら ただ 猿に 落さっだ て、せぁぇづっけど。爺ど婆んばぁ、ほれではっとかんづえで、爺ぁ、 「猿っ、この畜生 (ちきしょ) ぁ、胡瓜姫こん化げあがたなっ」 ていうど、猿どごかすかみづげで、棒 (ぼきなぎ) で、ひぱだぎづげで、顔 (つら) の皮ひん剥 (む) え だど。ほうすっど猿ぁ顔出はてきたべ、爺ぁ怒 (ごしえ) ぁで、 「胡瓜姫こぁどごどさやた。このえぐなし畜生ぁ、胡瓜姫こぁどごどさやた」 て、猿ぁどごばえんばえん、ひぱだぎづげだば、猿ぁ、 「長者野さ連 (つ) でえて、ほごさぶん投げできた」 て白状したけど。ほうすっど爺ど婆んばぁ、怒 (ごしえ) ぁで怒ぁで、猿ぁどごありった げしぱだきづげで、殺してしまたけどは。 ほうして、猿ぁどご萱野さ引ぎって行 (え) て、ぶん投げできたけど。血だらけの猿ぁ どご、萱野引ぎつて歩 (あ) りたべ。んだはげぁぇ萱の根 (ね) 元ぁ今でも赤げぁぇあだど。 とんぴん からんこぁ ねぁっけどは。 |
(話者 舟生カネヨ) |
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