16 胡瓜姫こ

 むがしあったけど。
 あるどさなー、爺さまど婆さまいでぁぇったど。何時でも畑さ行たり、田さ行 たり、山さなの行たりしていだけど。
 ある時なー、婆さま、下の川さ洗濯しん行たど。ほうしたら、向うがら何が流っ できたけど。ほんでなー。婆さま、
「あら、何が流っできたじゅ」て見っだど。
 ほうしたば、大っき胡瓜ぁ一 (しと) づ流っできたぁだけど。婆さま、
「なんだて大っき胡瓜だごど」て、ほの胡瓜拾たど。ほうしてなー、ほれ、
「大っき胡瓜だおん、爺さまど二人 (したり) して食うべ」
 て、家さ持てきて、水屋 (みじや) さ置えっだど。
 ほうして、暫ぐ洗濯物おもでさ掛げだり、表の草むしりなのしったど。ほうし たば、家 (え) ん中で、「おぎゃぁ、おぎゃぁ」て、赤子 (あがご) の泣ぐ声ぁすっずおん。婆さま どでしてしまたけど。
「俺ぁ家にぁ、赤子なのいねぁな、ないなおんだべ」
 ど思 (も) てふしぎがたど。あんまりふしぎだおんださげぁぇ、耳のせだべがどもて、 まだ、だまって聞っだど。ほうしたば、まだ、「おぎゃぁ、おぎゃぁ」て泣ぐ音ぁ すっずおん。ほんで婆さま家 (え) ん中さ入 (へあ) てえて見だど。ほしたば、泣ぎ声ぁ水屋が らだけど。ほんで水屋さ行てみだば、めんごげだ女 (おなご) おぼこぁ泣 (ねあ) っだなだけど。ほ して、胡瓜ぁ二 (したっ) つん割っで、胡瓜がら生 (んま) っできたなだけどやー。婆さまぁ、
「なえだて、胡瓜がら生っできたぁだじゅは。まずめんごぇごど、めんごぇごど」
 て、ほの赤子抱 (であえ) できて、自分 (おわ) 着物 (きおの) さくるで、寝へでおえっだど。
 ほうしているうづん、爺さま昼あがりして来たけど。ほんで婆さまぁ、
「爺さま爺さま、まず、見でころ。胡瓜ぁ川さ流っできたはげぁぇ、拾てきて、 水屋さ置えっだば、ほの胡瓜がら、こげぁぇためんごえ赤子おぼこぁ生 (んま) っできた じゅ。」
 て、ほの赤子おぼこ、爺さまどさ見 (め) へだど。ほしたば爺さまも、どでして、
「なえだてめんごえ赤子だごど。胡瓜がら生っだなて、おがしごどもあるおんだ」
 て、びっくりしったけどは。ほうして、
「俺だ子供 (わらし) 達 (だぢ) ぁいねぁはげぁぇ、神さま授げでくっだなだべ。んでもえがった、 えがった」
 て、二人してうんと喜 (よろご) で、胡瓜がら生っだはげぁぇ、胡瓜姫こどでもつけんべ て、名前胡瓜姫こどつけだけど。ほうして、早ぐ大っきぐなれ、早ぐ大っきぐな れて、二人ぁ大事んして育でっだけど。
 ほうして、大っきぐなっど、婆さまぁ、
「胡瓜姫こぁ女だはげぁぇ、機織りでも教へねぁんねぁ」
 ていうなで、胡瓜姫こぁどさ、機織り教へっだど。
 ほうして暮しているうづん、胡瓜姫こも機織上手んなて、何時でも、きっこん ぱたん、きっこんぱたんて、ええ音さへで、織ってだけど。
 ある時、婆さまぁ、
「今日ぁ、俺も爺さまも山さ行 (え) てくっさげぁぇ、一人で留守居 (るすれ) してろよ。ほうし てな、山がら天の邪鬼ぁ来てさらわれっさげぁぇ、決して戸開げんなよ。なんた ごどぁあっても、ほっても開げでぁ駄目だぞ」
 て、丁寧 (ねづ) ぐ教へで、爺さまど婆さまぁ山さ行たけど。
 ほうしてなぁ、一寸 (しっとえあ) すっど、
「胡瓜姫こ、胡瓜姫こ。いだがや」
 ていう声ぁすっずおん。ほんで胡瓜姫こぁ、「いだー。誰だや」て聞だば、
「天の邪鬼だ。あんまり天気ぁええさげぁぇ遊びん来た。戸開げろや」
 ていうけずおん。胡瓜姫こぁ、
「戸なの開げらんねぁ」
 て言 (ゆ) たば、天の邪鬼ぁ、
「まず、ええ天気だ、こんげぁぇええ天気ぁ、めったんねぁはげぁぇ、機織なの 何時でも出来るんだ。外さ俺ど遊 (あす) びん行 (え) ごや」
 つけど。ほんでも胡瓜姫こぁ、
「おら嫌 (や) だ。戸開げっど、爺さまど婆さまに、怒 (ごしや) がえるおん」
 て言 (ゆ) たど。ほしたば、天の邪鬼ぁ、
「遊びん行たたて、誰も怒 (ごしや) ぐおんでねぁんだはげぁぇ。長者野さ、うんと美味 (んめあえ) 桃ぁ えっぺぁなてだぜぁぇ。ほごさ連 (つ) で行ぐはげぁぇ、戸開げろちゃ」
 て、天の邪鬼ぁ、言 (ゆ) たら、胡瓜姫こぁ、
「嫌 (や) んだ。戸開げっど怒 (ごしや) がえるおん」
 て聞がねぁけど。ほしたば天の邪鬼ぁ、
「んだら、俺ぁ入らねぁはげぁぇ、指二本入 (へあえ) るくれぁぇすがしてみろ」
 なて、あんまりいうおんだはげぁぇ、胡瓜姫こぁ、戸の心張棒(つっぱり) とて、少す開げ だど。ほうすっど天の邪鬼ぁ、戸の隙間こさ爪引っ掛て、がえら開げでしまたけ ど。胡瓜姫こなの戸しめっだて、天の邪鬼ぁ力あるんだおん。胡瓜姫こなのかな わねぁんだはげぁぇ。ほんで、天の邪鬼に機屋さ入 (へあ) らっでしまたけどは。んだお んだはげぁぇ、胡瓜姫こぁ、ほごさ、すぐだまてしまたけどは。なんぼがどでし たぁだべ。
 ほうすっど、天の邪鬼ぁ、胡瓜姫こぁ嫌 (や) だて泣ぐなかまわねぁで、胡瓜姫こど ご背負 (んぷ) て、長者野さ連 (つ) で行 (え) たど。ほうして、ほごの桃のあっどさ、胡瓜姫こぁど ごどっさり下ろして、自分桃の木さ上がて、一生懸命ん桃食いだけど。
 胡瓜姫こぁ、
「俺ぁどさも食へろ」
 て言 (ゆ) たば、青え桃ばりぶんなげでよごして、おわばり赤げぁぇんめ桃食うなだ けど。ほんで、胡瓜姫こぁ、
「青え桃なの食 (か) んねぁべちゃ。う (ん) めぁぇどご落してよごへ」
 て言たば、天の邪鬼ぁ、「これがっ」ていうど、青くて固 (かであえ) な、胡瓜姫こぁ頭さ、 ばえんばえんど、ぶつけでよごして、胡瓜姫こぁどご、殺してしまたけどは。
 ほうして、知らねぁふりして、胡瓜姫こん化 (ばげ) で、何時でも胡瓜姫こぁ機織して る小屋さ入て、ぎごら、ばだら、ぎごら、ばだらど機織しったど。
 ほごさ、爺さまど婆さまぁ帰 (けあ) ぇてきたけど。ほうして、婆さまぁ、爺さまどさ、
「なえだて、今日の機織の音ぁ、めっぽう下手だ音だな。爺さま。胡瓜姫こぁ、 どごがえぐねぁべが」  て、ふしぎがて、小屋んどさ行 (え) て、
「胡瓜姫こ、胡瓜姫こ。今帰えてきた。お前、どごが悪りが、めっぽう今日ぁ機 織下手だ音さへるちゃな」
 て言 (ゆ) たば、小屋ん中で、天邪鬼ぁ、
「どごも、えぐねぁぐなのねぁ」
 て言 (ゆ) いながら、ぎこら、ばたら、ぎごら、ばだらて、下手だ音さへっずおん。
あんまりふしぎだおんださげぁぇ、入口の戸開げで見だど。んだて、見れば胡瓜 姫こだべ。おがしおんだど思 (も) て見っだば、やっぱり、ぎこら、ばたら、ぎごら、 ばだらど織ってるずおん。
 ほうしったどさ、鳥こぁ飛 (と) できて、
    胡瓜姫こぁ さらわらった
    胡瓜姫こぁ さらわらった
 て、さえずっけど。爺さまど婆さまぁ、はっと思て、これぁ胡瓜姫こんねぁ、 天の邪鬼だて分て、爺さまぁ、
「この畜生ぁ、胡瓜姫こぁどご殺したな」
 ていうど、ほごにある棒で、天邪鬼ぁどご、だぎだぎと叩えで殺したど。むぞ せぁぇ話よな。とんぴん からんこぁ ねぁっけどは。
(話者 高橋久雄)
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