14 化げ猫の恩返し

 むがしあったけど。
 むがしぁ、よぐ山伏どが、武士どが、坊さんなの、修行のために諸国を廻って 歩いたおんだそうだ。ある時、一人の貧しい坊さんが諸国を廻て、修行して歩 (あり) て るうづん、ある村さ来て、夕方暗ぐならっで、村のある家さ泊めでころて行たど。 ほごの家でぁ、見ればみすぼらし格好 (こ) の坊さんなんだし、
「俺ぁ家でぁ泊めれねぁども、この村はずれに荒れ寺あっさげぁぇ、ほごさ行て 泊まれ」て言 (ゆ) わっだど。
 ほんで、村はずれさ行たば、やっぱり見るかげもねぁ荒れ寺で、足のふんだで (踏み場)もねぁよだ荒れ寺あっけど。んでも、誰も泊めでくえる人もねぁんだ し、陽ぁ暮 (く) っで、どさも行ぎどごもねぁんだし、まづ、ほごさ一夜の宿を求めだぁ だど。
 ほうして、夜の十二時頃になたば、本堂で、がぁんて鐘ぁ鳴たどおもたら、ほ のお寺ぁ、化物屋敷だがなんだが知らねぁども、眼のびがびがど光る、針金みでぁ だひげのある山猫だがなんだが、大っきて大っき虎猫ぁ、本堂のかんげがら出は て来たぁだけど。
 こごぁ荒れ寺だし、淋 (さぶ) しごどぁ覚悟していだがったども、ほげぁた化物なの出 るどぁ思わねぁがった。俺だて腹へてるし、これだてこご棲家にしてれば、誰一 人食べ物だて与える者ぁいねぁんだし、ど思て、自分が村がらもらて来たにぎり 飯、今夜食うべど思ていだぁだども、半分は俺ぁ食うし、あど半分はお前 (めあえ) 食 (け) え、 て山猫みでぁだ化猫さ、やたど。
 ほしたば、ほの虎猫ぁ、涙ぽろぽろどこぼして、
「今まで何べんどなぐ、こごさ泊また人 (しと) ぁいだども、誰一人どして俺どさ食べ物 なの与えでくっだ者 (おの) ぁいねがった。お前のやさし気持ぁ本当 (ほんとん) ありがでぁ。その恩 返しに、何時 (いづ) の何日 (いつか) 、庄屋の大事だ一人娘ぁ亡くなて、引導渡す時、お前どさお 礼すっさげぁぇ、その覚悟でいろよ」
 ていうど、夜ぁ明げできたんだし、ほの化物ぁ見ねぁぐなたけど。
 ほうして、ほの坊さん、まだ、「化猫のいうごどだおん、嘘 (ずほ) なんだが、本当なん だが分るおんでねぁ」ど思ていだど。
 ほうして、四、五日暮しったば、やっぱり化猫ぁいった通り、庄屋の娘ぁ亡ぐ なて、野辺送り来て、今引導渡す時 (づぎ) 、急に空ぁ真暗んかぎ曇り、何者がにほの棺 箱さらわっでしまて、大騒ぎしったけど。
 ほん時、化猫ぁ荒れ寺さ来て、坊さんどさ、
「俺ぁ、今、庄屋の娘ぁ入 (へあ) った棺箱さらて、かぐして来たはげぁぇ、お前早ぐ行 て、俺ぁありがでぁお経唱えで、ほの棺箱出してくえるて行げ。ほうして、ナム クラタンノトラヤヤてお経上げろ。ほうすっど、俺ぁほの棺箱空がら下ろしてよ ごすはげぁぇ。ほれで、何事もねぁように明るぐなるし、今までお前こじぎみでぁ た坊さんでも、位のある和尚に仕立でであげられっさげぁぇな。これぁ俺の恩返 しだ。んだはげぁぇ、早ぐ行げ。急がねぁば駄目だぞ」
 ていうど、いねぁぐなたけどは。
 ほんで、ほの坊さんが、急いで庄屋の家さ行てみだば、やっぱり化猫ぁ言 (ゆ) た通 り、棺箱さらわっだどて、大騒ぎしったどごだけど。
 ほんでほの坊さんが、早速、
「みな騒ぐな。静 (すず) がにしてころ。今、ありがでぁお経上げて、ほの棺箱出してく えっさげぁぇ」
 ていうど、線香上げで、一通り拝むど、木魚たでぁで、
「ナムクラタンノトラヤヤ…」
 て唱えだど。ほうすっど、雲ぁだんだん晴れできて、ほの雲の中がら、棺箱ぁ すうっと下りで来て、何事もねぁがったように明るぐなたけど。
 ほんでは、皆たまげでしまて、見だどごぁ汚ねぁこじぎ坊主みでぁんた格好ご そしてんども、よっぽど修業つんだ、徳の高 (たげ) ぁ坊さんなんだなど思たけど。
 ほんで、ほの坊さんは都がら偉い位もらて、庄屋にすっかり立派にしてもらた お寺さ入 (へあ) て、ほのお寺の住職になたけど。とんぴん からんこぁ ねぁっけどは。
(話者 中川チャウ)
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