13 姥捨山むがしあったけど。むがしあなあ、年寄りずぁ、唯いで飯 (まま) ばり食ってんべし、ほれさよぼよぼて、 もうろぐつげんなもいんべし、飯こぼしたり、お汁 (づげ) こぼしたり、中にぁ、小便 (しょうべ) 糞 (くそ) も 一人で出来 (げ) ねぁぐなて、まずべし、めくせぁおんだはげぁぇ、六十んなっど、姥 捨山だどが、木の股 (まった) だどがて、山さ捨てできたおんだど。 ほういうむがしんなぁ、ある男人 (おどごしと) ぁ、自分家の親婆さまぁ六十んなたおんださ げぁぇ、山さ捨てで来ねぁんねぁぐなて、仕方ねぁ山さ背負て捨てん行たど。 ほうして、大分 (であぶ) 行たば、ぱきんぱきんていう音ぁすっずおん。ほんでほの人ぁ、 婆さまぁおがし音さへるおんだど思 (も) て、 「婆さま婆さま。なにしったや」て聞だど。ほしたば、 「木の枝折ったぁだ」 ていうけど。ほんで、 「木の枝なの折て、何するおんだや」 て聞だば、婆さまぁ、 「お前 (めあ) 帰 (けあ) ぇりしめぁん、道分らねぁぐなっどえぐねぁはげぁぇ、曲り角どが、分 れ道んどごなのの枝折て、印つけで来たはげぁぇ、帰ぇりしめぁんほれ見で行げ。 間違うごどぁねぁぐ帰ぇれっさげぁぇな」 ていうけどやぁ、ほんでほの人ぁたまげで、 「今、自分 (おわ) 山さ捨てらっで、食うおのもねぁぐなて死ぬばりん時、息子ぁ道さ迷 わねぁで帰ぇられるよんしてくえるなて、親んねぁば出来 (げ) るごどんねぁ。親、こ んげぁぇ俺ぁどご思てくえっ時 (づぎ) 、ほの親俺ぁ山さ捨てん行ぐなて、ほんた間違て るごど、俺ぁされるおんでねぁ」 ど思 (も) たら、泣けで泣げで、涙止まらねぁけどは。ほしたば、婆さまぁ、 「泣ぐな泣ぐな。泣がねぁたてえ。さぁ行ぐべ」 つけど。ほしたば、息子ぁ、 「婆さまどごあんまり有難でぁくて、むぞせぁくて、山さ置えでなの、俺あとで も帰ぇらんねぁ。家さ行ぐべは。家さ連で行て、今まで馬鹿でしねぁがった親孝 行、俺もしてみでぁぐなた。これがら俺ぁ大事んすっさげぁぇな婆さま。んだは げぁぇ、家さ行ぐべはや」 て言 (ゆ) たけど。ほしたば婆さまぁ、 「ええ、え、俺ぁ家さ行たて、何にも出来 (げ) るわげんねぁ、返 (けあ) てお前達の手足まど いんなるばんだし、ほれさ、年寄りぁ六十なっど山さ捨てろていうな国の掟 (おぎ) でだ べ。んだはげぁぇ、俺ぁどごなの家さ連で行たら、ほれごそ、殿さまにお前叱 (ごしゃ) が えるばんだべ。んだはげぁぇ、ええはげぁぇ、山さ置えで行げ」 て、あぐまでも息子ぁどごかばうなだけど。ほんで息子ぁ、 「奥の座敷さ置ぐはげぁぇ、外さ出はて、人ん見つけらんねぁよん、奥の座敷に いだらえがべ。んだはげぁぇ、帰ぇて、俺ど一緒ん暮すべ。ほうへば、誰にも見 つけらんねぁんだおん。若し、見つけらっだ時ぁ仕方ねぁ、ほん時ぁほれまでの 寿命だど思えばえんだおん。俺ぁなんずしたて、婆さまどご山さなの置えで行げ ねぁ」 て、婆さまぁどご背負て、家さ戻て、婆さまどご大事んして暮しったけど。 ほうして暮してるうづん、殿さまどから、国中さ触 (ふれ) ぁ廻わたけど。ほれぁまだ、 「七節ある竹さ開 (えあ) っだ細え穴さ、糸通へる者ぁいねぁが」 ていうお触だけど。 ほれぁまだ、隣りの国の殿さま言 (ゆ) てよごした難題だけど。ほうして、ほの問題 解げねぁば、お前 (めあえ) の国取てしまうて言 (ゆ) てよごしたぁだど。ほんで殿さま困てしま て、国中さ触出して、 「分る者さごほうびくえっさげぁぇ、分る者ぁ教へろ」 て書ぇっだぁだけど。 ほんでほの人ぁ、うんと考げぁだども分らねぁけど。ほうして、 「これだば、俺なの分らねぁ、婆さまどさ聞でみねぁんねぁ」 ていうなで、婆さまどさ行て、 「七節ある竹の節さ開 (えあ) っだ、細え穴さ糸通してやんな、分る者ぁ教へろて、国中 さ触出してよごしたなよ。なんずんしたらええおんだべ」 て聞だど。ほしたば婆さまぁ、 「ほっがほっが。ほれぁなぁ、蟻の大っきな捕 (しめ) できて、蟻の足さ糸つねぁで、竹 の一 (いづ) 番上 (ゆえ) さ砂糖置えで、下さ蟻放してみろ。ほうすっど、蟻ぁ砂糖の匂えけぁで、 ほの砂糖食いでぁくて、上さ上がて糸通すおんだ」 て教へだけど。ほんで、ほの人ぁ、直ぐお城さ走して行て、 「殿さま。俺ぁ覚 (おべ) であす」 て言 (ゆ) たど。ほしたば、殿さまぁ、 「んでぁ教へろ。なんずするおんだ」 て聞ぐけど。ほんで、 「大っき蟻の足さ糸つねぁで、竹の上の方さ砂糖おえで、ほの竹の下さ蟻放すど、 蟻ぁ砂糖の匂えけぁで、上の方さ行ぐはげぁぇ、ほげぁしてみろ」 て言 (ゆ) たど。ほしたば、殿さまぁ、 「それぁよさそうだ。早速試してみよう」 ていうごどんなて、ほの通りしてみだど。ほしたば、蟻ぁ、んまぐほの穴さ、 糸通したけど。ほんで殿さま喜で、ほの人さ、えっぺぁごほうびくっだけど。 ほれがらまだ暫ぐおもうど、まだ、隣りの国の殿さまぁ、 「今度ぁ、灰でなた縄よごへ」 て言 (ゆ) てきたけど。ほんで、殿さま分らねぁだし、家来達 (だづ) さ聞だて分らねぁだし、 まだ、国中さ灰で縄なえる人ぁいねぁが、て触出したど。 ほんでほの男人ぁ、ほれ聞だども分らねぁんだし、まだ、婆さまどさ、 「婆さま婆さま。今度ぁ灰で縄なてよごへて触出してよごしたども、なんずした ら、灰でなの縄なうえおんだべ」 て聞だど。ほしたば、婆さまぁ、 「殿さま、まだ、ほんたごどゆてよごしたなが。ほんたおのぁ雑作 (じょうさ) ねぁおんだ。 縄さ塩水 (しっしよみづ) かけで、乾へだら焼 (えあ) でみろ。直ぐ出来 (げ) っさげぁぇ」 ほんでほの人ぁ、早速、縄さ塩水かけで、乾ぐど焼でみだど。ほしたば、縄の 形そっくり残たけど。ほんで直ぐ殿さまさ、ほれ持て行て見 (め) へだど。ほしたば、 殿さまたまげで、 「やぁやぁ、これはよぐ出来だ。まづ、なんずして作たおんだ」 て聞ぐけど。ほんで、ほの人ぁ、婆さまに教へらっだ通り、 「縄さ塩水かげで、乾えでがら焼だなです」 て言 (ゆ) たど。ほしたば、殿さまぁ、 「そうがそうが。よく出来だ。お前はこんな難しい問題を二度も解いでくれだ。 んだがら、なんでもお前のええおのをほうびにくえっさげぁぇ、いってみろ」 ていうけど。ほんでほの人ぁ、 「ごほうびなの、なんにもいりあへん。俺ぁ家の婆さままだ、六十なたはげぁぇ、 ほれば姥捨山さやらねぁで、家さ置ぐよんして下せぁ。この度の問題二 (したっ) つとも、 実は俺ぁ分らねぁくて、婆さまがら聞だぁです。こればりんねぁぐ、何が分らねぁ ごどぁあっど、みな婆さまがら聞ぐなですさげぁぇ、どうが婆さまどご捨てねぁ よんお願げぁぇしあす」 て言 (ゆ) たど。ほしたば、殿さま感心して、 「なる程、年寄りは経験も沢山あるごどだし、見だり聞いだりも余計 (よげ) だべ。お前 がいってくれたので、よく分った。年寄りを捨てろといったのは、わしが悪がっ た。これがらは、年寄りも捨てねぁで、大事んするごどにする」 て、ほの人さ、うんとごほうびくっで、その親孝行だな賞めだけど。とんぴん からんこぁ ねぁっけどは。 |
(話者 高橋三右ヱ門) |
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