12 木のまったむがしあったけど。むがしぁなぁ、なんた人 (しと) だて六十なっど木の股 (まった) だていうもんで、六十なた年寄 (としよ) りば山奥さ連 (つ) で行て、木の股さ置えでくんなでぁったど。 ほればりんねぁ、おぼごぁ余り生れっど、穀 (ごぐ) つぶしだて、貧乏だ家 (え) でなの、飯 (まま) 食 んねぁぐなるどて、殺して埋 (ん) めでしまうなも、えっぺぁいっがったど。 んだはげぁぇ、年寄りぁ六十もなっど、働げねぁぐなて、飯ばり食て、穀つぶ しだはげぁぇ、木の股んしたんもんだど。 んでも、ある若者 (わげぁぇおの) ぁ、親爺 (おやず) さまぁ六十なたはげぁぇ、まず仕方ねぁ、村の人ぁ 見でる昼間、親爺さまどご背負て山さ行たど。ほうして、萱で小屋かげで、藁敷 で、寒ぐねぁよんどんぶぐなの着へで、夜んま迎げぁぇん来っさげぁぇな、てに ぎり飯 (まま) 置えで来たけど。 親だおの、俺ぁどご難儀して育ででくっで、分らねぁごどぁ何でも教へでもら たぁだおの、いだましくて、むぞせぁくて、とでも山さなの捨てでおがんねぁ。 て、今度 (こんだ) ぁ、夜んま、こっそり迎げぁぇん行て、爺さまどご背負 (んぷ) て自分 (おわ) 家 (え) さ連で 来て、奥の座敷さ置えで、 「人に見らえっどえぐねぁはげぁぇ、こから出はんなよ」 て言 (ゆ) て、大事 (であじ) んして暮しったけど。 ほうしていだば、隣りの国の殿さまがら、自分 (おわ) 達 (だ) 方の殿さまどさ、丸太一本よ ごして、この丸太の梢 (うら) どっつだが、元ぁどっつだが、印つけでよごへて来たけど。 ほれぁ、こっつの国に、智恵者いるがなんだが、調べでぁがったぁだど。 ほんで殿さまぁ、家来達皆集 (あづ) べで、 「隣りの国がら、この丸太の梢ど元ぁどっつだが、教へでよごへて言 (ゆ) てきた。こ れぁこの国に智恵のある者ぁいだがなんたが調べて、いねぁば攻めで来て、この 国取てしまう考げぁぇだはげぁぇ、なんずしてもはっきり教へでやらねぁんねぁ。 お前達はどうだ。分る者ぁいねぁが」 て聞だども、誰も覚 (おべ) っだ者ぁいねぁくて、皆頭下げで、何にもいう者ぁいねぁ がったど。 ほんで殿さま困て、 「それでは、国中に触れを出せ。ほうして、分る者ぁいだら、なるだげ早ぐ連 (つ) で こえ。こういう事はぐづぐづしてっど駄目だ」 て、国中さ、早馬で触れ出したど。 ほの若者もほの触れがぎ見だども分らねぁけど。んでも、これぁ大変だ。まず、 早ぐ爺さまどさ聞でみねぁんねぁ。て走して行て、爺さまどさしゃべたど。ほし たば、爺さまぁ、 「ほんたごどぁ雑作 (じょうさ) ねぁごった。元 (もど) の方ぁ重でぁぇおんだ。んだはげぁぇ、静が ん水さ入 (へ) っど、元の方あ沈 (すず) で行ぐおんだ」 て教へだけど。ほれ聞ぐど、若者ぁ、直ぐ代官所さふっとで行て、俺ぁ覚 (おべ) っだ て言 (ゆ) たど。爺さま六十過ぎだぁだはげぁぇ、爺さまどから聞だていうど、罪んな るおんだはげぁぇ、俺ぁ覚っだて言 (ゆ) たぁだど。 代官さまぁ、ほれ聞ぐど、若者馬さのへで、自分も馬さのて、お城さ走して連 (つ) で 行たど。ほうして、殿さまさ申し上げだば、 「そんなら、早速、この丸太の梢ど元教へろ」 つけど。ほんで若者ぁ、 「お堀の水さ、静がん、この丸太入っでみで下だせぁ」 て言 (ゆ) たど。ほんで殿さまぁ、家来達 (だ) ぁどさ、丸太運ばへで、お堀の水さ静かん 入らへだど。ほしたば、片方 (かだっぽ) ぁ沈でえたけど。ほうすっど若者ぁ、殿さまさ、 「木は元も梢も同 (おんな) じでも、元の方ぁ年こぁくってっさげぁぇ、重でぁぇおんです。 んだはげぁぇ、沈んだ方ぁ元です」 て、爺さまがら聞だとおり言 (ゆ) たど。ほしたば殿さま喜で、えっぺぁごほうびくっ だけど。 ほれがら、又暫ぐすっど、隣りの国がら、今度ぁ、灰でなた縄よごへ。それも 十日の間 (えあだ) ん作 (こしえ) でよごへ、て言 (ゆ) てよごしたぁだど。殿さまぁ困て、家来達 (だ) 集べで 聞だども、分らねぁけど。ほんでまだ国中さ触れ出したど。 若者ぁまだほれ見で、 「爺さま爺さま。今度ぁ灰でなた縄よごへて来たど。なんずんしたら、灰でなの 縄なうえおんだべ」 て聞だど。ほしたば、爺さまぁ、 「ほれぁなぁ、まず、先ん縄なてで、濃え塩 (しっしょ) 水かげで、こんだほれ乾がして焼 げ」 て教へだけど。ほんで若者ぁ、早速教へらっだ通りんしてみだど。ほしたば、 親爺さま言 (ゆ) た通り、なたままの灰の縄出来 (げ) だけど。 ほんでほれ箱さ入 (へ) で、代官さまさ持て行たば、まだ、お城さほれ持て連で行て、 殿さまさ見へだば、殿さまぁ、 「なるほど、これぁえぐ出来だ。えがったえがった」 て喜で賞めでくっで、まだ、えっぺぁごほうびくっだけど。 ほうして、まだ暫ぐおもたら、まだ、隣りの国がら、今度ぁ、曲りくねた、細 え穴ええぁっだ水晶の玉よごして、これさ糸通してよごへて来たど。七月のうづ んねば駄目だて言 (ゆ) てよごしたぁだど。 なんぼほの玉見だて通へそんんねぁし、通すべど思たて、穴曲てるおんだは げぁぇ、糸なの通らねぁけど。殿さま困てしまて、まだ国中さ触れ出したど。 若者ぁ、ほれ見っど、まだ爺どさ来たど。ほしたば爺さまぁ、 「山蟻捕 (しめあ) で来え。ほしてほの蟻の足さ、絹糸つねぁで、出口の穴んどさ、蜂蜜ぬ て、反対の穴がら蟻押し込 (こ) でやれ。ほうすっど、蟻ぁ蜂蜜の匂えけぁで通ってえ ぐはげぁぇ」 て教へだけど。 ほんで若者ぁ、「俺ぁ覚でいあす」て、代官さまさ行たど。ほんで代官さま、ま だ殿さまどさ連で行たど。ほしたば殿さまぁ、 「どうして、これに糸を通すんだ」 て、ほの水晶の玉見へだけど。ほんで若者ぁ、 「まず、山蟻一匹ど、蜂蜜ど、絹糸用意して下せぁ」 て頼だど。ほんで殿さまぁ、早速ほれ持て来 (こ) らへだど。 ほんで若者ぁ、玉借りで、片方の穴さ蜂蜜塗て、蟻の足さ絹糸ゆっつげで、蜜 塗らねぁ方の穴さ、蟻ぁどご押し込でやたど。ほしたば、蟻ぁ、爺さま言 (ゆ) たとお り、もそもそど穴くぐて行て、絹糸通したけど。 殿さまぁ、たまげで見っだけど。ほうして、やっぱり智恵ぁねぁど駄目だ。戦 だて同じだ、俺の国にもこげぁぇた智恵のある者ぁいでぁったが。んでぁ、俺の 国も大丈夫だ。て、大した喜で、 「お前は三度も国を救ってくれだ智恵者だ。何でもほうびのものをとらす。望み のものをいってみろ」 て、殿さま言 (ゆ) たど。ほうしたば、若者ぁ、 「私 (わだす) はほうびなの、なんにもいりぁへん。ただ、殿さまの命令を犯した罪せぁも、 許してもらえばえげぁぇす」 て言 (ゆ) たど。ほんで殿さまぁ、不思議に思て、 「その罪というは、どういう罪だ」 て聞だど。ほんで若者ぁ、 「実 (づづ) は、私には六十になた親爺さまいだぁです。私はその親に、難儀して育でで もらいぁしたし、知らねぁごどぁ、みな親がら聞で一人前 いっちょうめあえ んしてもらいあした。 んでも、親より智恵ぁ足んねくて、この度の三つの難題も、実は私の智恵で解え だおんねぁくて、木の股さ置がねぁで、家さかぐしった親に教へでもらたおのば りです。ほういう訳で、私は六十なた年寄り、かぐしった罪許してもらて、親を 家さ置がへでもらて、一緒ん暮さへでもらえば、それでええなです。この度の手 柄で、どうか私を許して下せぁ」 て、手つえで殿さまさ頼だど。ほうしたば、殿さまも、ほの若者の親どご思う 心にうだれで、涙流しったけど。ほうして、 「お前は思いきって、余の悪がったごどをよぐ言ってくれだ。お前の親孝行には 余も頭の下がる思いがする。お前の罪は罪ではない。余の悪政で、老人がこの世 の中に、こんなによい智恵を出してくれで、国を救ってくれだごどで、余の目が 覚めだようだ。早速六十の木の股は止めるごどにする。」 て、殿さま喜で喜で、若者さほれごそえっぺぁごほうびくっで、ほれがらは木 の股ねぁぐして、年寄り大事んすろ。て触れ出したけど。とんぴん からんこぁ ねぁっけど。 |
(話者 高橋福松) |
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