9 どうもこうも

 むがしあったけど。
 こごらあだりだば、新庄みでぁんた町さ、医者二人 (したり) いだけど。ほうして、ほの 医者達 (だ) ぁとでも上手 (じょん) だ医者で、どっちぁどっちどもゆわんねぁくれぁ上手だ医者 達だけど。ほうして、一人ぁどうもていう医者で、もう一人ぁこうもていう医者 でぁったど。
 二人ぁ上手だおんで、まず、指もえだて言 (ゆ) えば、指ちゃんとくっつげでくえん べし、足もえだて言 (ゆ) えば、足くっつげでくえるし、首切らっだていうど、首せぁ もくっつげでくえなくれぁの名医でぁったどや。
 ほんで手怪我したていうど、んだらほれ、新庄のどうもさ行げ。足折たて言 (ゆ) え ば、ほんでぁ、こうもさ行げていうなで、流行て流行て、しっしゃましだくれぁ 流行っがったど。
 ある時、及 (のぞ) 位 (ぎ) の百姓ぁ、秋田の殿さま行列つくて来たな気ぁつかねぁで、ほの 行列の前 (めあえ) 横切 (ぎ) てしまたど。ほうすっど、お伴の武士 (さむれぁ) に、
「ど百姓の分際で、殿さまの行列の前横切ったな」
 ていうど、いぎなりすぱっと首切らっでしまたけど。ほうすっど、家の人 (し) 達 (たず) ぁ 父親 (つぁつぁ) 首切らっでしまたどて、つぁつぁどさ抱 (たぐ) づで泣 (ねあ) っだけどは。ほしたば、村の 人達ぁ、
「んでぁ、新庄のこうもさ連 (つ) で行げ」
 ていうなで、皆して戸板さのへで、新庄のこうもさ連 (つ) で行たど。
 ほしたば、こうもぁ、
「これぁ丁度えあんべぁだ。どうもぁ、この首なんぼ上手んくつげっが、くっつ げらへてみねぁんねぁ」
 ていうなで、ほの死人どうもさ連で行たど。ほうして、どうもさ、
「この首くっつげてみろ」
 て言 (ゆ) たど。ほしたば、どうもぁ、「んだがっ」ていうど、ほの首、えぁんべぁ載 へで、一生懸命ん縫て、そんま生 (えが) したけどは。
 ほれ見っどこうもぁ、どうもなのくっつげんねぁべど思 (も) た首くっつげだべ。自分 (おわ) ぐれ上手だ医者いねぁど思たな、どうもぁ立派んくっつげだべ。んだおんだんだ はげぁぇ、いまいましくてしょうあねぁがったど。ほんで何時がどうもぁどさ、 なんとがして一泡ふがへねぁんねぁど思ていでぁったど。
 ある時、こうもぁ、萩野の百姓やがら、大怪我したはげぁぇ、大至急来てもら いでぁていう使いぁ来たけど。ほうして馬さのへらっで行てみだば、ほごの家の 親父ぁ、押切で手もえでうなていだぁだけど。ほんでこうもぁ、ほれくっつげで、 縫て治してくっだけど。ほんでえがったどて、うんと喜ばっで、すこでぁま御馳 走なて、ええ機嫌なて、馬で送らっで来たど。
 ほうして、大分 (であぶ) 来たば、仕置場で罪人が二人、首切らっでだどごだけど。ほん でほの首切られんな見でがら、家さ帰 (けあ) ぇたど。ほうして、一人で、
「あっ、んだ」
 て叫んだけど。
 ほうして、次の日、こうもぁ、医者の道具持 (たが) て、どうもぁ家さ行たけど。ほう して、どうもぁどさ、
「どっつぁ上手だが、腕くらべすんべや」
 て言 (ゆ) たど。ほんで、どうもぁ、
「なんたごとしてや」
 て聞いだら、こうもぁ、
「二人 (したり) ぁ一緒に首切て、自分首くっつけるごどすんべ」
 て言 (ゆ) たど。ほんでどうもぁ、
「ほんた馬鹿くせぁごど出来 (げ) るおんでねぁ。ほんたごど俺ぁ嫌 (や) だ」
 ていうけど。ほんでも、こうもぁきがねぁで、
「名医だば、ほのくれぁのごどぁ出来 (げ) るんだはげぁぇ、まず、すんべ」
 て聞がねぁけど。どうもぁ、なんぼ嫌だて言 (ゆ) たて、こうもぁ、すろどてきがねぁ おんださげぁぇ、とうどうしめぁぇにぁ、どうもぁ負げで、するごどんしたど。
 ほうして二人 (したり) ぁ一緒ん首切たべ。ほうすっど首ぁ転でえたべ。手ぁ拾ろうかん じょしたべ。んだて、手さ眼 (まなぐ) ぁつでねぁべ、んだおんださげぁぇ、拾ろうもなに も出来るおんでねぁんだはげぁぇなや。ほんでとうどう二人ぁほのまま死んでし まて、どうもこうも出来ねぁぐなてしまたけどは。
 んだはげぁぇ、ほんた馬鹿だごどするおんでねぁおんだど。どうもこうもてい うな、ほれがら言うよんなたぁだど。とんぴん からんこぁ ねぁっけどは。
(話者 高橋久米次郎)
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