7 長者むかしむがしあったけど。むがし、あるどさなぁ、金持だ長者いだけど。ほうしてな、ほの長者まだ、ほ れごそ立派だ金の盃持てで、宝物 (おの) んして、うんと大事んしったけど。 ほうしてなぁ、ほの大事んしった盃ぁ、ある時なんずんしたおんだが、見ねぁ ぐなてしまたけどは。ほうすっどほれ、金の盃だべ、長者いだましくていだまし くて、うんとさがしたど。なんぼさがしたて、出はて来ねぁけどは。 ほんで仕方ねぁ八卦おぎどご頼て、八卦おえでもらたど。ほんでも、ほの八卦 おぎぁ、 「俺だば、なんぼおえでも分らねな」 つけど。ほんで困ては、んでぁ、あっつの八卦おぎぁええんねぁべが、こっつ の八卦おぎぁええんねぁべがて、あつこつの八卦おぎにおえでもらたど。どごの 八卦おぎも、分らねぁ、分らねぁてばりいうけど。ほんで長者、いだましくてい だましくて、困て困ていだけど。 丁度ほの頃、どから来たんだが分らねぁ、一人 (しとり) の男人ぁほの村さ来て、誰も泊 める人ぁいねぁおんださげぁぇ、村の古えお堂さ泊またど。ほしたば、夜中ん、 かちゃんかちゃんて、金の音ぁすっさげぁぇ、目醒したけど。ほうして見っだば、 金の盃鼠ぁ引張て来て、お賽銭箱の中さ、ほの金の盃、かちゃんと落して行てし またけどは。ほの男人ぁ、 「あらあら、不思議だごど、鼠ぁ金の盃なの引張て来たちゃは。なえなおんだべ」 て見っだど。 ほうして、次の日なたれば、ほれ、長者家でぁ、金の盃ぁなぐなたて大騒ぎだ べ。ほうして、あっつこっつの八卦おぎん八卦おえでもらたども、分らねぁがっ たていう話だべ。 ほんでほの人ぁ考 (かんげぁ) えだど。この神社、あんまり古ぐなて、みな朽ぢでしまて、 雨漏りするよんた有様だおん。だんまておがんねぁ。これぁしとづ八卦おぎのふ りして、この神社直へば出る、ていうごどんしねぁんねぁて考だけど。ほうへば、 長者ばりんねぁ、村の人 (し) 達 (たづ) も神仏大事んするよんなんべていうなで、長者家 (え) さ行 たど。ほうして、 「お前家でぁ、何がとでも大事だおのなぐしたていう話だども、ええごったら、 俺ぁ八卦おえでみでくえっが」 て言 (ゆ) たど。ほしたば、長者ぁ、 「なんとが頼みあす。誰ぁどさおえでもらたて分らねぁ分らねぁてばりいうおん だはげぁぇ、うんと困てだぁだ。なんとがおえでみでころ」 て頼むけど。 ほの人ぁ、八卦なのおえだごどなのねぁなで、八卦なの知らねぁなだども、ま ず、覚 (おべ) っだふりして、八卦おぐまねぁしたど。ほうして、 「ああ、これはどうも、こごの村の人達ぁ、神仏あんまり大事んしねぁよだ。ん だはげぁぇ出はらねぁぇよだ。まず、村はずれの神社腐っで、神さま雨でぬれる おんだはげぁぇ、ごしぇっだぁだ。んだはげぁぇ、長者先んなて、あの神社直へ ば出はてくる」 て、真面目だ顔 (つら) して、如何にも本当らしぐゆたべ、ほんで長者ぁ、 「んですか。あの神社さっぱりかまわねでいだな、俺 (あら) だ悪りがった。んでぁ、早 速、新しぐ建で直しあす」 ていうけど。 ほうして、早速ほの神社、村の人達ど一緒んなて、建で直したど。ほん時 (づぎ) お賽 銭箱も朽 (くぢ) ったはげぁぇていうなで、ほの古えお賽銭箱がら、ほの金の盃ぁ出はて きたけど。ほんで長者うんと喜だけど。 ほうしているうづん、長者の娘ぁ、病気んなて、あっつの医者だ、こっつの医 者だ、て頼で診でもらたて、治っずぁねぁけど。ほうして、だんだんやへで行ぐ ばんだけど。 ほんで長者ぁ、医者駄目だば、んでぁ、八卦おぎに、何故 (なして) 治らねぁなだが、見 てもらわねぁんねぁ。ほれも他の八卦おぎだば駄目だはげぁぇ、この間の人頼ま ねぁんねぁ、ていうなで、長者ぁ、 「俺ぁ家の娘ぁ病気で、どごの医者も治へねぁはげぁぇ、どごぁ悪 (えぐ) ねぁあだが、 どうが八卦おえでんねぁが」 てほの人どさ頼みん行たけど。 んだて、ほの人ぁ、本当の八卦おぎんねぁべ。んだおんだんだはげぁぇ、困て しまたけどは。んだて、長者ごどんしてぁ、ほれ、誰もあでかねぁだ、金の盃の あっどご当だ人だおんだはげぁぇ、この人より上手 (じょん) だ八卦おぎぁいねぁどもて、 頼みん行たわげよな。ほうして、 「どうが、娘死なへだくねぁはげぁぇ、なんとが頼みます」 て頼むべ。んだはげぁぇ、こねぁだんな鼠ぁ引張てくんな見っだぁだ。ても言 (ゆ) わ んねぁくて、仕方ねぁ、 「んでぁ、明日おえであげあす」 て、返事してしまたけどは。 ほして、返事してしまてがら、困て困ていだけど。んでもまず寝たど。ほうし たば、ほの晩、夢ん中さ神さま出はて来て、 「この間はお陰さんで、神社ええぐ作 (こしえ) でもらて、本当 (ほんとん) ありがどさんでしたは。そ のお礼に、明日の八卦教 (お) へっさげぁぇ、えぇぐ聞げ。あの娘ぁ、本当 (ど) ぁ病気なの んねぁなだ。むがしあの家建でっ時 (づぎ) 、今 (えま) 娘ぁ寝っだ部屋の下さ、蛇ぁ埋 (ん) めらっで あだ。ほの蛇ぁ何 (なんた) も悪 (えぐね) ぁごどしねな、そごにいだばりで殺さっで埋めらっだは げぁぇ、ほれ残念で、今 (えま) あの娘ぁどさ祟ったあだ。んだはげぁぇ、ほれ掘て、別 んどさ埋めで、蛇塚作くて、供養してやれば娘ぁ医者さなのかがらねたて、そん ま治んなだ」 ていうど、神さま見 (め) ねぁぐなてしまたけどは。 ほんでほの人ぁ次の日長者家さ行て、まだ真面目顔して、八卦おく真似して、 「ううん。これは蛇の祟りだ。何も悪ごどしねぁ蛇あ、こごの家の人達に殺さっ だよだ。ほんでほの蛇ぁ祟ったなだ。んだはげぁぇ、ほれぁ娘さんの寝っだ、部 屋の下さ埋めらっでだはげぁぇ、ほれ掘て、別んどさ蛇塚作 (こしえ) で供養すっど、ほの 病気ぁ直ぐ治る」 て、神さまに教 (お) へらっだ通りん言 (ゆ) たど。ほしたば、長者ぁ、すぐ娘別の部屋さ 移して、板敷の下掘て見だど。ほしたば、やっぱり蛇の骨こぁ出はてきたけど。 ほんで長者ぁ、ほの人に言 (ゆ) わっだ通りん、ほの骨こ別んどさ埋めで、蛇塚作て、 丁寧んまったど。 ほしたば、娘ぁそんまえぐなたけどは。ほうして、長者まだ、ほの人に一度な らず二度も助けらっで、本当ありがでぁがった。ほういう立派だ人だば、俺ぁ家 の娘の聟んしねぁんねぁ。てほの人に聟んなてもらて、幸福 (しっしゃわへ) ん暮したけど。と んぴん からんこぁ ねぁっけどは。 |
(話者 舟生カネヨ) |
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