2 花咲か爺じい

 むがしあったけど。
 むがし、ある所 (ど) さな、正直だ爺さまど、嘘 (ずほ) こき爺んじぁいだけど。ある時、二 人 (したり) ぁ 川さ簗 (やな) かげだけど。ほうしたば、正直だ爺さまのやんなさ、雑魚ぁえっぺぁかが たども、ずほこぎ爺んじぁやんなさ、まだ、犬こはんてかがらねけど。ほうすっ ど嘘こき爺んじぁ、面 (おも) 白 (へ) ぐねぁおんだはげぁぇ、ほの犬こ、正直だ爺さまのやな の方さ、ぶっとばしてよごしたど。ほしたば、ほの犬こぁ正直だ爺さまのやなさ かがたけど。正直だ爺さまぁ、
「これぁめんごえ犬こぁかがった」
 て、頭撫でで、うんと喜で、ほの犬こ懐 (しとごろ) さ入で、家さ連で来たど。ほうして、 赤 (あげ) ぁぇ魚 (とど) こ食 (か) へで、大事ん撫でさすて育でっだけど。
 犬こぁ、だんだん大っきぐなて、ええ犬こんなたけど。ある時、婆さまぁ、
「爺さま爺さま、蕎麦蒔ぎしねぁんねべなは」
 て言 (ゆ) たど。ほんで爺さまも、
「んだな婆ぁさん。蕎麦蒔ぐ節 (へづ) だおんはな。んでぁ、今日あだりから、そろそろ 蕎麦蒔ぎでもすっが」
 ていうなで、二人ぁ畑さ行て、爺さま畝こしぇすっど、婆さま種蒔ぎしったず おん。ほうしたば、畑の隅この方で、犬こぁわんわんて吠える音ぁすっずおん。 ほんで二人ぁ腰伸ばしてみだば、犬こぁ、吠えでぁ前 (めあえ) 足で土 (つぢ) かっちゃくてぁ吠え、 土かっちゃくてぁ吠えして、爺さまどご呼ぶけど。爺さまなえだべど思 も て、犬こ んどごさ行て、
「此処 (こご) 掘れていうなが」
 て、ほご掘てみだど。ほしたば、一鍬 (しとか) 掘たばんで、ざぐんざぐんて金の音ぁし て、他 (ほが) のどごど別だけど。ほうして掘てみだば、金ぁ出はてきたけど。ほうして 掘れば掘る程、宝物 (おの) ぁえっぺぁ出はてくっけど。
 ほんで、爺さまど婆さまぁ、うんと喜で、まず一服 (えっぷぐ) すっがて休んでいだけど。
ほしたば、ほごさ隣のへちゃへちゃ婆んば来て、掘た宝物みで、たまげでしまて、
「あらあら、こんげぁぇ宝物なんずんして見つけだおんだや」
 て聞ぐけど。ほんで婆さま、
「お前 (え) の爺さまど、俺ぁ家爺さま、ほれやんな掛げだべでぁ、ほしたば、えの爺 さまなさ犬こぁ掛がて、俺ぁ家の爺さまなさ、雑魚ぁ掛がたべ。んだおんだんだ さげぁぇ、えの爺さまごしぇで、犬こふっとばしてよごしたば、ほの犬こぁ俺ぁ 家の爺さまやんなさ掛がたべ。ほんで俺ぁ家の爺さま、ほの犬こ連できて、大事 んして育でだべ。ほしたば、今畑で、こご掘れどて、わんわんてなぐおんださげぁぇ、 掘てみだば、ほれさまざまの宝物ぁ出はてきたなだ」
 て教へだど。ほしたば、隣のへちゃへちゃ婆んば、
「この犬こぁ、ほげぁぇたええ犬こが、んでぁ俺ぁ家さも貸してやれ。俺ぁ家で も掘らへでみっさげぁぇ」
 ていうけど。ほんでも、爺さまも婆さまも、
「この犬こなの貸さんねぁ。俺ぁ家の宝物だおん。とでも貸さんねぁ」
 て断 (こど) わたども、貸へ貸へどて、むりむりどほの犬こ連で行たけどは。
 ほの犬こ自分 (おわ) 家 え さ連で行ぐど、自分家の欲張り爺んじぁどさ、
「爺々。隣りでぁ、この犬この吠えっどご掘たば、宝物ぁえっぺぁ出はてきたけ なよ。んだはげぁぇ、犬こ借りで来た。まず早ぐ裏さでも連で行てみろ」
 て、爺んじぁどご呼ばて、犬こやたど。
 ほうすっど、爺んじぁ犬こ裏さ連で行て、どごだどごだて犬こさ言 (ゆ) たて、犬こぁ 吠えねぁべ。んだおんださげぁぇ、爺んじぁごしぇで、ただえだりおつめだりし て、ながへで、なえだどご掘てみだべ。んだて無理んながへらっだどからなの、 なんにも出はるおんでねぁんだはげぁぇ、めめずなの煉瓦かげなの、瀬戸 (へど) かげは んて出はてこねけど。ほんでほっつこっつ掘てみだども、宝物なの出はてこねけ ど。
 ほうすっど、嘘 (ずほ) こぎの欲張り爺んじぁ、ごしぇでしまて、こんた畜生 (ちきしょ) ぁあった おんでねていうど、犬こぁどご、ばえんばえんどただぎ殺してしまて、ぶっとば してやたけどは。
 隣りのえぐなし爺んじぁ、犬こ返 (けあ) さねぁおんだはげぁぇ、爺さま、犬こ返して ころて行たば、
「あんた畜生ぁあったおんでねぁ。俺ぁ家さば宝物どごんねぁ、瀬戸かげなの、 瓦かけなのばり出しあがて、見ろごみばりえっぺぁ出はたは。んだはげぁぇ、あ んた犬こただぎ殺して、裏のほれぁ、ほごのごみやらさ、ぶっとばしった」
 ていうどけど。ほんで爺さまむぞせぁくてむぞせぁくて、死んだ犬こ自分 (おわ) 家 (え) さ 持て行て、畑の隅こさ埋で、ほごさ松ぬ木植 (ゆ) えで、毎日爺さまど婆さまあ、水あ げで拝でいだけど。
 ほしたば、ほの松ぬ木ぁ、どんどんおがて、そんま臼掘るえくれぁんなたけど は。ほんで爺さま、
「婆さま婆さま、松ぬ木ぁあんげぁぇ大っきぐなたし、俺ぁ家でぁ、ろぐだ臼ぁ ねぁはげぁぇ、あの松ぬぎで臼でも掘てみっがや」
 て、婆さまどさ相談したら、婆さまも、
「んだな爺さま。ほれぁええな。んでぁ、あの松伐て臼掘てみろちゃ」
 ていうはげぁぇ、爺さま、ほの松ぬ木伐て、臼掘たど。ほうしたば、婆さま、
「爺さま爺さま。こんげぁぇええ臼ぁ出来だおんだおん、餅でも搗 (つ) で、犬こぁど さ上げっがや」
 ていごどんなて、二人ぁ餅搗ぎ始めだど。ほうして、搗っだば、搗ぐたんびん、 ざぐらっ、ざぐらっど臼ん中さ金ぁ出はてくんなだけど。ほんで爺さまど婆さまぁ、 又宝物ぁ出はてきたどて、大喜びしったけど。
 ほごさ、又、隣のへちゃへちゃ婆んばきて、ほれ見では、たまげでしまて、
「ないしたてお前家でぁ、ええごどばりあるおんだ」
ていうけど。ほんで婆さま、
「家 (え) でぁ、貸さんねぁていう大事 (であじ) だ犬こ連で行て、殺してしまたはげぁぇ、犬こ埋 (んめ) だどさ植 (ゆ) えだ松で、臼掘 (ほ) て餅搗えだば、こんげぁぇ宝物ぁ出はてきたあだ」
 て教へだど。ほしたば、隣りの婆んば、欲張りなおんだはげぁぇ、ほの臼借り でぁぐなて、自分の家さ走して行たど。
 自分家さ行ぐど、自分家の嘘こき爺んじぁどさ、
「爺さ爺さ。隣りの家でぁ、犬こんどさ植えだ松で臼ほて、ほの臼で餅つだら、 宝物ぁえっぺぁ出はてきたけぁ、まず、荷繩 (にんな) 持て行 (え) て、早ぐあの臼借りできて、 俺ぁ家でも餅搗でみろちゃ」
 て言 (ゆ) たべ。ほうすっど爺んじぁ、荷繩持 (た) がて隣さ行て、臼貸へどて、やんやて いうけど。へぁづ貸さんねぁていうな、むりむり借りで背負てきたけど。
 隣りの欲張り爺んじど欲張り婆んばぁ、なんぼが宝物ぁ出んべど思 (も) て、すぐは 餅米ふかして餅搗ぎ始じめだけど。
 ほうして、つでみだども、なんにも出はらねぁけど。なんぼ搗でもただの餅搗 ぎで宝物なのさっぱり出はてこねぁべ。んだおんださげぁぇ、くたびっで、ごしゃ げできては、ほの臼割て、かまどさくべでしまたけどは。
 隣りで臼返 (けあ) さねぁおんだはげぁぇ、臼とりん行たど。ほうしたば、
「あんた臼ぁ、なんにも出はらねぁ唯の臼だけ。んだはげぁぇあんたおの、割て かまどさくべでくっだは」
 つけど。爺さまぁ、
「んだはげぁぇ貸さんねぁ、て言 ゆ たあだでぁ。んでぁ、仕方ねぁ、灰ばりも貰ら て行ぐ」
 て、ほの灰もらてきたど。
 ほしたば、ほの晩、爺さま枕もどさ、犬こぁ姿見へで、
「爺さま爺さま、今 (えま) まで大事ん育ででもらたはげぁぇ、もう一ぺん恩返 (げあえ) すする。 今日もらてきた灰、明日殿さまのお通りあっさげぁぇ、花咲が爺じい枯木に花を 咲がせでみよう。て、大っき声で叫がで、枯木さ灰撒 (めあ) でみろ。ほうすっど、枯木 さいづめん桜花咲ぁで、殿さま喜で、ごほうびえっぺぁくえっさげぁぇな」
 ていうど、見ねぁぐなてしまて、爺さま目醒ましたけど。
 ほんで爺さま、犬こぁ夢枕さたたぁだはげぁぇ、ほんとのごどだべて、夜明げ んな待ぢっだど。
ほうしているうづん夜ぁ明げで、殿さまのお通りぁあるどて、村中の人 (しと) ぁ出は てきて、道のわぎさ坐て待ぢっだど。爺さまも灰持 た がて、枯木さ上がて、殿さま来 (く) んな待ぢっだど。
 ほのうづん殿さま来たけど。ほんで爺さま、大っき声で、
「花咲が爺じい、枯木さ花咲がせでみよう」
 て叫がだば、殿さま馬止めでみっだけど。爺さまぁ、まだ、
「花咲が爺じい、枯木さ花を咲がせでみよう」
 ていうど、ざえっと枯木さ灰撒だど。ほうしたば、ほごら中さ灰ぁかがて、一 面桜の満開の花ぁ、きれん咲 (せあ) だけど。ほんで殿さま喜で喜で、爺さまどさ、えっ ぺぁごほうびくっだけど。とんぴん からんこぁ ねぁっけどは。
(話者 高橋キク)
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