11 孝行息子

  むがしあったけど。むがしなー。こごだば塩根 (しよね) 川 (が) みてぁだどさ、炭焼ぎしてる爺 (ず) さまど息子ぁいであったど。ほの息子ぁ、とでも孝行だやさし息子でぁったど。
 ほうして、炭山さ行ぐど、
「つぁつぁ(お父さん)、つぁつぁ。木なの伐たり、背負たりなの俺ぁどさまがへ でおげ。かまばり見ででころ」
 て、親父さまどさ、難儀だ事なのさっぱりさへねぁで、自分ばり難儀だ仕事す んなだけど。親父さま、昼休みん時なの息子あどさ、世の中のごどさまざま教へ んなだけど。ほうして正月近けぁぐ
「正月ん時 (づぎ) ぁ、七草まで休むおんだ。ほして正月三日まだ、不浄日 (にち) て外さ出 (で) 歩 (あり) ぐ おんでねぁ。三日の日ん出歩ぐど、ろぐだごどあねぁおんだ。こどん夜んまなの 歩ぐど、雪女 (おぼめ) ぁ来る。ほの雪女ずぁ、子供 (わらすこ) 抱 (であえ) できて、一寸抱 (しつとえあ) ででころて、子供ど ご抱がへで、抱ぐど、ほの子供ぁ、だんだん重でぁぐなて、しめぁぇにあ動 (えご) がん ねぁぐなて、凍 (しみ) 死でしまうはげぁぇ、決して三日の晩なの出歩ぐおんでねぁおん だ」
 て教へだけど。
 ほうして、ほのうづん正月ぁ来たずおん。爺さまど婆さまど息子ど三人ぁ、 赤 (あげ) ぁぇ魚 (とど) こ(塩引)で正月して、ええ正月だて言 (ゆ) てだけど。
 ほうしているうづん、三日んなたど。ほしたば、ほの晩、爺さま急に腹痛でぁ、 て、うなり出したけど。ほれもほれ昔だおん。ろぐだ薬なのねぁべ。んだはげぁぇ 息子ぁ、爺さまの腹なででくっだど。んだて治らねぁくて、苦しそで、みでらん ねぁくて、三日の晩は決して出歩ぐなて教へらっだども、これだば医者頼むほが ねぁはげぁぇ、まず、医者さ行てこねぁんねぁ。医者せぁぇも来てくえれば、つぁ つぁどご治してもらえる。つぁつぁせぁぇも治れば、俺なのなんづんなてもええ ど思 (も) て、提灯下げで医者どさ出がげだど。
 ほうして、大分 (であぶ) 行 (え) て、もう少す行ぐど医者家だていうどごまで来たらなー、向 うがら子供 (おぼこ) 抱 (であ) えだ女人 (おなごしと) ぁ来たけど。息子ぁ、あっおぼめぁ来たじゅはて、分たお んだはげぁぇ、知らねぁふりして、行くかんじょしたったど。ほしたら、
「あのう」つけど。息子おもわず立ち止またど。ほしたば、
「あんまり悪 (わり) ども、一寸 (しっとあえ) このわらすこ抱 (であ) でくんねぁべが」  ていうけど。ほんで、息子ぁ困てしまて、
「俺家のつぁつぁ腹やみしてで、急で医者呼びん行ぐなだはげぁぇ駄目だ」
 て、行ぐかんじょしたて、雪ぁえっぺぁ積た一 (えっ) 本道だべ。ほして前 (めあえ) さ雪女ぁ立 てるおんだおん。行 (え) ぐに行がんねぁべ。ほうすっど雪女ぁ、
「ほんとの寸時 (ちょっこり) でええなだ。小便 (しょべ) ぁつまて堪 (こであ) でいらんねぁはげぁぇ、小便する 間 (えあだ) ばんでえなだ。この雪降りで、この雪の中だべ、んだはげぁぇ子供 (わらすこ) 置がんねは げぁぇ、なんとが助けてころ」
 ていうおんだし、元来 (ねっから) やさし若者 (わげあえおん) だべ。あんまり頼まっで、嫌 (や) だて言 (ゆ) いかねぁ で、
「んでぁ、ほんとん一寸だぞ」
 て、ほのおぼこあづがてしまたけどは。ほうしたば雪女ぁ、近ぐの木の陰 (かんげ) さ行 たきりは、なんぼ待ぢっだて来 (く) っずぁねぁけどは。ほんで、息子ぁ、
「困ったごどしたちゃは、つぁつぁなんぼが苦しんだべぁ」
 ど思 (も) て、ほんて困てしまたけどは。
 この雪の中だおん、このおぼこ置えで行ぐわけにもえがねぁべし。どもでなー。 ほうしているうづん、今度ぁだんだんおぼこぁ重でぁぐなてきては、仕舞 (しめあえ) にぁ立 ていらんねぁぐなて、雪の上 (ゆえ) さ坐てしまたけどは。
「あー、困たちゃ。つぁつぁ言 (ゆ) た通りんなてしまた」
 ど思 (も) て、困てしまたけど。
 あんまり重でぁさげぁぇ、雪の上 (ゆえ) さほのおぼこ置ぐがど思たども、おぼこあに こにこ笑て、めんごえ顔 (つら) こしてんべし、むぞせぁぇくて、とでも雪の上さなの置 ぐ気んなのなれねぁがったど。
 ほうして、困てっどさ雪女 (おぼめ) ぁ出はて来たけど。ほうして、
「どうも有難どさん。おかげで助かりあした」
 て、礼言 (ゆ) て、おぼごとてくっだけど。ほして、
「本当だば、お前 (めあえ) 、凍死 (しみし) ぬな待ぢでで、食てしまうなだども、お前親思いだし、 このおぼごどごも、雪の上さおぐなむぞせぁて、やさしぐしてくっだ心気に入っ たはげぁぇ、おぼご取りん来たなだ。爺さまの腹痛でぁなも、俺ぁ治してきてくっ だはげぁぇ、医者さなの行ぐまでんねぁ。早ぐ家さ行げは。ほれがら、明日隣り 村の作蔵ぁ家さ行てみろ。あそごの家の娘ぁ、門口 (ぐづ) さ立て待ちでっさげぁぇ、ほ の娘もらてこえ。ええ娘だぞ」
 ていうど、すうっと雪女ぁ見ねぁぐなてしまたけどは。
 息子ぁ、ふしぎだごというおんだど思 (も) て、家さ行てみたど。ほしたば、親爺さ ま治てだけどは。息子ぁ、あんまりふしぎだおんだはげぁぇ、親達さ雪女ぁ話語 て聞がへだど。ほしたば爺さま、
「ほれぁふしぎだ話だ。雪女ぁ人助けるなて、まだ俺だ聞だごとぁねぁ。お前 (んつ) だ て、そろそろ嫁 (わげあえ) もらわねぁんねぁ年だはげぁぇ、ものは試しというごどもある。 作蔵さん家んどさ、先ず行てみんだ。あそごの娘ぁ門口 (かど) さ出はてれば、言 (ゆ) た通り んなる。あそごの家ぁ俺だ家と違て、大百姓だし、娘だて評判のええ娘だはげぁぇ、 俺ぁ家さなの呉 (く) えっが呉 (く) んねぁが分らねぁども、まず行てみでこえ」
 ていうおんだはげぁぇ、息子ぁ次の日、洗らてさっぱりした着物 (きおの) きて行 (え) てみた ど。
 ほうしたば、前 (めあえ) の晩、雪女ぁ言 (ゆ) たとおり、作蔵家の娘ぁ、門口さ立ていだけど。 ほうして、にこにこして、
「俺ぁ家のおどっつぁ、さきだからお前 (めあえ) 来んな待ぢっださげぁぇ、まず入 (へあ) てころ」
 つけど。息子ぁびっくりしてしまたど。んでも先ず入 (へあ) たど。
 ほうしたば、おどっつぁ、床の間の上座さ座布団敷 (し) で、自分 (おわ) 下座さ坐わて、
「まずまず、えぐ来てくれぁした。さぁさぁ、先ず、こっちゃ坐わてころ」
 て、息子ぁどご上座さすえで、
「この度ぁ、誠にふしぎなご縁で、まずまず驚ぎあした。実ぁ夕べ枕神ぁ立て、 娘ぁどごお前さんさけろ。ほうすっど、娘ぁ幸福 (しっしやわへ) んなるていうわけよ。ほして、 お前さんが今朝来てくえれば、間違 (まじげあえ) ねぁはげぁぇ、ていうおんだはげぁぇ、今朝 から待ぢっだなです。こういう訳だはげぁぇ、どうが俺ぁ家の娘もらてけらっし えぁ」
 ていうけど。ほんで息子も、
「誠にどうも有難ござりあす。私 (わだし) の方も、実 (ずづ) ぁ夕 (ゆ) べな、つぁつぁ腹痛でぐして、 三日は不浄日だはげぁぇ、決して出歩ぐなてゆわっだども、あんまり苦しむおん だはげぁぇ、医者迎げぁぇん行 (え) たなでした。ほの途中、雪女ぁ出はて来て、急用 で医者迎げぁぇん行ぐぁだはげぁぇ、駄目だていうなむりむりおぼこ抱がへらっ て困てだら、漸ぐ雪女ぁ来て、おぼこ大事んしてくっだお礼だどて、つぁつぁ腹 治してくっで、明日こごの家さ行 (え) て、娘もらてこえて言 (ゆ) わっだども、俺ぁ家なの あの通りの家なんだし、実ぁなんたおんだべど思 (も) て来て見だなです。どうが何分 よろすぐお願げぁぇしあす」
 て語て聞がへだど。
 ほうしたば、作蔵もどでして、
「んでも、お前 (めあえ) さんが親孝行で、優しはげぁぇ、神さま、この縁結んでくっだな だべ。こういう娘だども、どうが末長ぐよろすぐお願げぁぇしあす」
 ていうごどで、二人ぁ夫婦んなて、末長ぐ幸福 (しっしやわへ) ん、暮したけど。んだはげぁぇ 親孝行づぁ、しねんねおんだど。とんぴんからんこぁねぁっけどは。
(話者 高橋良雄)
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