8 地蔵さまむがし

 むがしあったけど。ある所 (ど) さなー、爺さまど婆さまいだけど。
 ほうして、彼岸の頃だべちゃな、婆さま、仏さまさ上げねぁんねぁて、団子こ しぇぁだど。ほうして、ほの団子仏さまさ上げだど。ほうしたば、ほの団子ぁ、 なんずんしたんだが、一 (しと) つころころっと転でえたけど。
 爺さま、庭掃ぎしてで、ほれ見つけで、
「あらっ、団子ぁ転できたちゃは」
 ど思 (も) て、ほの団子拾ろうかんじょしたども、団子ぁまだころころど転でえて、 庭の隅 (すま) この方さえぐけど。ほんで爺さまもってぁねぁどもて、ほの団子追 (ぼ) かげで行 (え) て、
「団子、団子、どごまで行ぐや」
 て、団子ぁどさ聞だば、
「ふるだんの下までだ」
 つけど。ほうして庭の隅この穴さ、ころころっ入 (へあ) てえたけど。ほんで爺さまも、 団子追かげで、庭の隅この穴さ入 (へあ) て行たど。ほうしたば、団子ぁころころど転で えて、地蔵さまの前 (めあえ) で止またけど。ほんで爺さま、ほの団子拾ろて、土のつだど ご自分 (おわ) 食て、土のつかねぁどご地蔵さまさ食へだど。ほしたば地蔵さま喜で、
「爺さま、爺さま。んめがったな。今日ぁ面 (おも) 白 (へ) おの見 (め) へっさげぁぇ、俺ぁいうご ど聞げ」
 つけど。ほんで爺さま、
「はえはえ」て言 (ゆ) たば、
「まず、俺ぁ膝 (ひじや) さ上がれ」つけど。爺さま、どでして、
「地蔵さまの膝さなの、もってぁねぁくて、とでも上がらんねぁ」
 て言 (ゆ) たば、地蔵さま、
「だまて俺ぁいうごどきげ」つけど。ほんで爺さま、
「んでぁ、どうがご免して下せぁぇよ」
 て、おそるおそる上がたど。ほしたば今度 (こんだ) あ、地蔵さま、
「んであ、今度あ肩さ上がれ」つけど。爺さまびっくりして、
「膝させぁぇももってぁねぁくて、漸ぐ上がたな、なんずして肩さなの上がらえ るおんでぁんだはげぁぇ」てゆたば、地蔵さま、
「膝さ上がるも、肩さ上がるも同 (おんな) じだ。俺ぁいうごど聞 (き) で、まず早ぐ上がれ」
 つけど。爺さまほうゆわっだおんだはげぁぇ、仕方ねぁ、
「あんまりもってぁもござへんども、んでぁまず許して下せぁぇは」
 て、おそるおそる地蔵の肩さ上がたど。ほうしたば、地蔵さま、今度 (こんだ) ぁ、
「ようし。上がたが。ええが、今度ぁ俺の頭さ上がれ」
 つけど。爺さまどでして、どでして、
「ないのごったて、地蔵さまの頭さなの、もってぁぇねぁくて、もってぁぇねぁ くて、とでもとでも、上がられあへん」
 て言 (ゆ) たども、地蔵さま、きがねで、
「上がれてゆたら上がれ。ええが、俺ぁいうごどきぐ、ゆたばんだべな。早く上 がれ」
 てきがねぁおんださげぁぇ、爺さまも仕方ねぁ、
「あんまりもってぁぇねぁくて、眼 (まなぐ) つぶれるよだども、どうがご免して下せぁぇ」
 て、地蔵さまの頭さ上がたど。ほしたば地蔵さま、
「ええが。えぐ聞でろよ。今そんま此処さ鬼こぁだ来る。ほの鬼こぁだ、俺ぁ前 (めあえ) で、ばぐぢ打 (ぶ) ぢ始める。ほうして、金えっぺぁ持てきてばぐぢ打ぢすっさげぁぇ、 俺ぁ今 (えま) ただ、て言たら、鶏の真似して、こけぁこっこて二度言 (ゆ) え、ほうすっど、 鬼こぁだ、ほら夜明げだはて、金みな置えで逃 (ね) げでえぐはげぁぇ、ほの金持てえ げ」
 て教 (お) へだけど。爺さま、
「こけぁこっこて、二度言 (ゆ) えばえなですか。わがりあした」てだけど。
 ほうしているうづん、鬼こぁだ十人ばりがやがやと集 (あづ) ばて来て、地蔵さまの前 さ、丸ぐ坐わたけど。ほうして、鬼こぁだ、
「さぁ、昨夜 (ゆべな) の続ぎだぞ」
 ていうど、皆自分前さ金並べで、ばぐぢ始めだけどやー。
 ほうして、すばらぐすっど、なになおんだが、鬼こぁだ口げんか始めで、騒ぎ 出したけど。ほしたば、地蔵さま、爺さまどさ、
「爺。今だ」ていうけど。ほんで爺さま、鶏の真似して、
「こけぁこっこー、こけぁこっこー」て叫 (さ) がだど。ほしたば鬼こぁだどでして、
「ほら、夜明げるはっ」
 ていうど、出した金なの見むぎもしねぁぇで、わらわらど逃 (ね) げで行 (え) てしまたけ どは。ほんで爺さま、地蔵さまの頭がら下りで、ほの金みなさらて、懐 (しとごろ) さ入っ だども、あんまりえっぺぁなおんださげぁぇ、しどごろさばりでぁ入 (へあ) らねぁくて、 股引 (しき) 脱えで、ほれさもつめで、地蔵さまどさ、なんげぁぇりもお礼言 (ゆ) て、家さ行 (え) た けど。
 家さ行たば、爺さま股引脱えで、褌一 (いつ) てんでぁが脛 (つね) なて来たべ。婆さまはほれ みで、
「なえだや爺さま、ほんた格好 (かっこ) してきたどごぁ。庭掃ぎしったど思 (も) たら、一寸 (しっとあえ) の 間 (こめあ) んいなぐなたけぁぇ、何処 (ど) さ行てきたおんだや」
 て聞ぐけど。爺さま、
「まず、これ見ろ」
 ていうど、股引の金、ざぐざぐとあげで、ほれがら、しとごろの金も皆出して 婆さまさ見 (め) へだど。婆さまどでして、どでして、
「あらあらっ。なえなおんだや爺さま。こんげぁぇえっぺぁ、まずまず、どから 持てきたおんだや」
 て、たまげでたまげで、眼丸こぐしったけどは。
 ほんで、爺さま語て聞がへだど。
「お仏さんさ上げっだ団子ぁ、ころころど転できたけはげぁぇ、もってぁねど思 (も) て、 拾ろうかんじょしたば、庭の隅この穴さ、ころころっと転で入 (へあ) てえぐけはげぁぇ、 穴ん中まで追 (ぼ) かげてえたば、地蔵さまの前で止またけはげぁぇ、ほの団子拾ろて、 土のつだどご自分 (おわ) 食て、土のつがねぁどご地蔵さまさ食 (か) へだなよ。ほしたば、地 蔵さま喜でくっで、面 (おも) 白 (へ) おのめへっさげぁぇ、俺ぁどさ上がれて言うけども、もっ てぁねぁくて地蔵さまどさなの上がらんねぁて言 (ゆ) たども、地蔵さまきがねぁで、 上がれ上がれていうおんだおん。仕方ねぁ許してもらて地蔵さまの頭まで上がた べ。ほしたば、地蔵さま、今 (えま) 此処さ鬼こぁだ来て、ばぐぢぶぢすっさげぁぇ、え あんべぁん時 (づぎ) 、鶏の真似して、こけぁこっこていうど、鬼こぁだ、えっぺぁ金置 えで逃げで行ぐはげぁぇ、ほれさらてえげていうべ。んだはげぁぇ、ほの通りん したば、こんげぁぇえっぺ金置えで行 (え) てしまたはげぁぇ、ほれ拾ろてきたぁだ」
 て教へだば、婆さまも喜で、
「えがったな、爺さま」ていうけど。
 ほうして、二人 (したり) ぁほの金勘定 (かんじょ) しったど。ほしたば、ほごさ隣のへちゃへちゃ婆 んば来たけど。ほうして、爺さまど婆さま金勘定しったな見で、たまげでたまげ で、
「ららったまげだ。何時の間 (こめあ) ん、こんげぁえ金持んなたおんだや」
 て聞ぐけど。人ぁええおんだはげぁぇ、爺さま教 (お) へだど。
 ほしたば、隣のへちゃへちゃ婆んば、ほれ聞ぐど、すぐ自分 (おわ) 家 (え) さ走してえて、 自分家の爺ぁどさ教へだど。ほして、
「爺。お前 (んつ) も団子転ばしてやて、金さらてこえちゃ」て、団子こしぇだけど。
 ほうして、次の日、爺ぁ隣りの爺さま家の庭の隅こさ来て、ほごの穴さ団子転 ばしてやて、
「団子、団子。どごまで行 (え) ぐや」
 て聞いだど。ほしたば団子ぁ、
「ふるだんの下までよ」つけど。ほうして、ころころと転でえくけど。爺ぁ喜で は、あどつで、ほの穴がら入 (へあ) てえたど。ほうしたば、やっぱり地蔵さまの前で止 またけど。ほうすっど爺ぁ、土のつっだどごむりむりど地蔵さまさ食へで、土の つがねぁどご自分食て、地蔵さま上がれても言 (ゆ) わねぁな、さっさど地蔵さまの頭 まで上がて、鬼こぁだ来んな待ぢっだど。
 ほうしたば、やっぱり鬼こぁ来て、地蔵さまの前で、ばぐぢ始めだけど。えっ くれぁぇしてがら、爺ぁ、
「こけぁこっこ、こけぁこっこー」て叫 (さ) がだど。ほうしたば鬼こぁだ、どでして 「ほら、夜明げるはっ」ていうど、わらわらど逃げでえたけど。んでも一人ぁ、 あんまりあわくて、自在 (かぎの) 鉤 (はな) さ自分 (おわ) 鼻引 (ひ) かげでしまて、痛でぁ痛でぁて、ながなが 取れねぁでいだけど。爺ぁほれ見っどあんまりおがしくて、「あはは」て笑 (わら) たど。 ほうすっど鬼こぁ、爺どご見つけで、
「このくっされ爺っこぁ、人 (しと) 騙しあがて、昨日 (きんな) 騙して金さらて行たなも、この爺っ こだな」
 ていうど、爺ぁどご地蔵さまがら引ぎづり下ろして、皆どご呼ばて、爺ぁどご むしゃむしゃと食てしまたけどは。
 んだはげぁぇ、人真似なのしたたて駄目だおんだど。とんぴんからんこぁ、 ねぁっけどは。
(話者 舟生カネヨ)
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