7 地蔵むがし

 むがしあったけどー。むがしなー、或る所 (ど) さ爺さまど婆さまいだけど。
 丁度、彼岸なおんだはげぁぇ、婆さまぁ、
「爺さま、爺さま。今日ぁ彼岸の入 (い) りだおんだおん、仏さまさ団子でもこしぇぁ で上げねぁんねべな」
 て言 (ゆ) たど。ほんで爺さまも、
「んだな、彼岸の入りだば、何処の家だて、団子上げるんだ、俺ぁ家だて上げねぁ んねぁべな」
 て、二人して団子こしぇぁだど。
 ほうして、ほの団子仏さまさ上げんべど思 (も) て、婆さま大っき皿さ盛 (も) て持 (たが) たど。 ほうしたば、なんずんしたんだが、団子一つ皿がら、ぽたっと落ぢだけど。ほし て、ほの団子ぁころころど転がえたけど。
 ほんで爺さま、
「あら、団子ぁ落ぢだちゃは」
 て、ほの団子拾うかんじょしたど。ほしたば、ほの団子ぁ、ころころど何処ま でも転でえぐけど。爺さま、
「団子、団子、どごまで行 (え) ぐや」て言 (ゆ) たば、団子ぁ、
「庭 (にわ) の隅 (すま) この穴までよ」て言 (ゆ) いながら、ころころど転でえぐけど。ほんで爺さま、 まだ追 (ぼ) かげで行 (え) たど。ほしたば庭の隅この方さ転でえて、ほごの穴こさころころっ と入 (へあ) てえたけど。爺さまもってぁねぁど思 (も) て、ほの穴この中まで追かげで行 (え) たば、 地蔵さまの前 (めあえ) さ行たけど。ほうして、ほごさ止またけど。ほんで爺さま、「もっ てぁねぁ、もってぁねぁ」て、ほの団子拾ろて、土のつだどご丁寧 (ていね) んとてほれば自分 (おわ) 食て、土のつがねぁどご、
「地蔵 (じぞ) さん、地蔵さん。本当の少すで申 (もうす) 訳ねぁども、上がてけらっしぇ」
 て、地蔵さまさ食へだど。ほうしたば、地蔵さま、
「爺さま、爺さま、ええごどあっさげぁぇ、一寸 (しっとえ) 待 (あ) で」
 て、爺さまどご呼ばたけど。ほんで爺さま、
「なえですや地蔵さん」
て聞だば、地蔵さま、まだ、
「今 (えま) な、こごさ鬼こぁだ来て、ばぐぢぶぢすっさげぁぇ、俺ぁどさ上がて待ぢで ろ。ほうして、鬼こぁだ、ばぐぢ始めっど、俺ぁ今だて教 (お) へっさげぁぇ、ほした ら、鶏の真似して、こけぁこっこて言 (ゆ) え。ほうすっど鬼こぁだ、ほら夜明げるは、 て皆逃 (ね) げで行ぐはげぁぇ、ほしたら、鬼こぁだ置えでえた銭 (ぜに) 持 (たが) て家さ行げ」
 て教へだけど。ほして地蔵さん、
「爺さま。まづ、俺ぁ肩さ上がれ」つけど。爺さま、どでして、
「肩さ上がれなて、とんでもねぁ、もってねぁくて、とでも上がらんねぁ」
 てゆたども地蔵さま、
「ええはげぁぇ、まず上がれ」
 て、なんべんもいうおんだはげぁぇ、爺さま、
「地蔵さん、地蔵さん。もってねな。どうが許してころは」
 て、肩さ上がたど。ほうしたば地蔵さま、
「爺さま、爺さま。こんだ頭さ上がれ」つけど。爺さま、どでしてしまて、
「肩させぁぇも、もってぁねぁくてようよう上がたな、なんずして頭さなの、と でも上がらえるおんでねぁんだはげぁぇ」
て言 (ゆ) たど。ほしたば、
「肩さ上がるも、頭さ上がるも同 (おんな) じだ。頭さ上がらねぁどだめだはげぁぇ、上が れ」
 ていうけど。ほんでも爺さま、
「もってぁぇねぁくて、もってぁぇねぁくて、頭さなのほっても上がらんね」
 て言 (ゆ) たば、地蔵さま、
「俺あ頭さ上がらねぁど、鬼こあだに見つけらっで、食っでしまうはげぁぇ、ま ず早ぐ頭さ上がれ」
 てきがねぁけど。ほんで爺さま仕方ねぁ、
「余 (あんま) りもってぁぇねぁども、ほんげぁぇゆてくえなだば、許してもらて、上がら へでもらいあす。まずまず、どうがご免して下せぁぇ」
 て、爺さま、ようやぐ地蔵さまの頭の上さあがたど。
 ほうして、爺さま、地蔵さまの頭さ上がっか上がらねうづん、どやどやど鬼こぁ だ十匹ばがり来たけど。ほうして、地蔵さまの前 (めあえ) でばぐぢ始めだけど。銭えっぺ もってきて、ほれやりとりしったけど。ほうして、暫ぐすっど地蔵さま、爺さま どさ小 (ち) っちゃぁぇ声で、
「爺さま、今 (えま) だ」ていうけど。ほんで爺さま、地蔵さまの頭の上 (ゆえ) で、
「こけぁこっこー」
 て、鶏の真似して叫 (さ) がだど。ほうしたば鬼こぁだどでして、
「ほら、夜明げるはっ」
 ていうど、銭なのみな、ほごさ置ぎっぱなしんして、走して何処 (ど) さが行 (え) てしま たけどは。
 ほんで爺さま、地蔵さまさゆっくんお礼言 (ゆ) て、ほの銭えっぺぁもらて来たど。
 ほしたば、婆さま、
「なえだやは爺さま、今まで何処 (ど) さ行てきたおんだや」
 て聞ぐけど。ほんで爺さま、
「転でえぐ団子追かげで、庭の隅 (すま) こがら入 (へあ) て行たば、地蔵さんの前 (めあえ) で止またけは げぁぇ、拾ろて、きれだどご地蔵さんさ食 (か) へだべ、ほしたら地蔵さん、鬼こぁだ ばぐぢん来 (く) っさげぁぇ、俺ぁどさ上がてで、鬼こあだばぐぢ始めだら、鶏の真似 して、こけぁこっこて言 (ゆ) え、ていうはげぁぇ、地蔵さんに言 (ゆ) わっだ通りんしった ば鬼こぁだばぐぢ始めだはげぁぇ、こけぁこっこてゆたば、鬼こぁだ、これぁこ んげぁぇ銭置えで逃げだなよ。ほんでこれ地蔵さんがらもらて来たあだ。まず見 ろちゃ」
 て、ほの銭、婆さまさ見 (め) へだべ。婆さまどでして、
「あらあらっ。こんげぁぇえっぺぁ、えがったな爺さま」
 て、二人 (したり) ぁ大喜びして、ほの銭かんじょしてみっだど。
 ほしたば、ほごさ隣りのへちゃへちゃ婆んば来たけど。ほうしてほの銭勘定しっ たな見で、たまげでしまて、
「あらあらっ。なえだてお前 (めあえ) 家 (え) であ、何時の間 (こまあえ) にほんげぁぇ金持んなたおんだ や」
 つけど。ほんで銭見らっだおんだし、仕方ねぁ、
「俺ぁ家の爺さま、庭の穴こさ入 (へあ) てえた団子追かげで、こうして、地蔵さんがら もらてきたぁだ」
 て、すっかり語て聞かへだど。ほしたば隣りのへちゃへちゃ婆んば、
「ほれぁええごど聞だ、んでぁ俺ぁ家の爺ぁどごも行 (え) がへねぁんねぁ」
 ていうど、わらわらど自分 (おわ) 家 (え) さ走して行て、
「爺々。まず隣りでぁ、たまげだもんだ。こげぁぇんして、地蔵さんがらしこでぁぇ ま銭貰らて来たけ。まずまずお前 (めあえ) も早ぐ行てみろちゃや」
 て、欲 (よご) 張り爺ぁどさ団子持 (たが) がへだど。ほうすっど隣りの爺ぁ欲張りなおんだお ん、「んだがっ」ていうど、隣りの爺さま家 (え) の庭の隅この穴さ、わんざど団子転が してやて、ほごから自分 (おわ) も入 (へあ) てえてみだど。
 ほしたば、団子ぁやっぱり地蔵さまの前で止またけど。ほんでおそこそ土のつっ だどごとて、地蔵さまさ食へで、上がれても言わんねぁうづん、地蔵さまの頭ま で上がて、鬼こぁだ来 (く) んな待ぢっだど。
 ほうしたば、やっぱり鬼こぁだ来たけど。んでも鬼こぁだ、来っどすぐ、
「なんだ。何処がて人臭せぁぇ匂いぁするんねぁが」
 て、一匹ぁ言 (ゆ) たば、他の鬼こぁだも、
「んだなー。何処だ何処だ。丁度腹も減 (へ) たしさがへ。さがへ」
 て、探し始めだけど。ほんで爺ぁおかなぐなて、地蔵さまの頭の上 (ゆえ) で、がだが だとふるえっだど。
 ほしたば、鬼こぁだ、
「どうも地蔵さんの近ぐだようだな」
 ていうずおん。ほうすっど、爺ぁおかなくて、おかなくて、あんまりふるえで、 地蔵さまがらがったり落ぢでしまたけどは。ほうすっど鬼こぁだ、
「ほら、いだっ」ていうど、腹減ていだ鬼こぁだだべ、爺ぁたーだ鬼こぁだに、 むしゃむしゃど食っでしまたけどは。
 隣りのへちゃへちゃ婆んば、爺ぁなんぼがえっぺぁ銭持てくんべど思 (も) て、穴こ んどごで待ぢっだて、爺ぁ来ねぁんだおは、婆んば、
「俺ぁ家 (え) の爺ぁ、来ねぁは、俺の家の爺ぁ、来ねぁは」
 て泣ぎながら自分家さ行たけどは。んだはげぁぇ、人 (しと) 真似なのするおんでねぁ おんだど。とんぴんからんこぁねぁっけどは。
(話者 高橋久雄)
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