5 しぴたれ男

  むがしあったけど。ずうっとむがしなー。塩根 (しょね) 川 (が) の奥さ、うんとしびたれだ男ぁ いだけど。あんまりしぴたれだおんだはげぁぇ、誰も嫁ん来 (く) んないねぁけど。
 ほの男人 (おどごしと) ぁ、あねこ欲 (お) しくなたけど。ほうして、ほれも飯食ねぁあねこ欲 (お) しど 思たあだど。
 ほの男ぁ、或る時 (づぎ) にぎり飯 (まま) 背負 (しよ) て、飯食ねぁあねこぁいねぁべがて、さがしん 出だけど。んだて、ほんたあねこなの何処さがしたているおんでねぁべ。ほんで 仕方ねぁくて、中田 (ながだ) の方がら峠越えで、自分 (おあ) 家 (え) さ帰 (けあえ) んべど思 (も) て、峠の下まで来た ど。
 ほしたば、きれだあねこぁ、切株 (ぼっこ) さ腰かげでいだけど。ほうして、ほの男ぁ行 たば、
「あんつぁ、あんつぁ、何処まで行ぐや」
 て聞ぐけど。ほんで、
「塩根川さ帰 (けあえ) んなだ」
 て言 (ゆ) たど。ほしたば、ほのあねこぁ、
「ないしん行てきたなや」
 て聞ぐずおん。ほんで、
「飯食ねぁあねこさがしん行てきた」て言 (ゆ) たば、
「みつけだがや」
 て聞ぐけど。ほんで、
「飯食ねぁあねこなの、何処にもいねぁけ」
 て言たど。ほしたらほのあねこぁ、
「んだら俺ぁさっぱり飯かねはげぁぇ、俺ぁお前 (めあえ) の嫁 (わげあえ) なてくえっが」
 つけど。ほんで、ほのしぴたれ男ぁ喜で、
「ほう。お前飯食ねなが。んでぁどうが俺の嫁んなてくねぁが」
 て、ほのきれだあねこどご、自分 (おわ) 家 (え) さ連 (つ) で行 (え) たど。
 ほのあねこぁ、さっぱり飯食ねで、うんと働ぐあねこだけど。ほんでしぴたれ 男ぁ、ええ嫁もらたて、うんと喜 (よろご) でいだけど。んでも、おがしごどにゃ、米あ、 あにぁ食うより早ぐなぐなんなだけど。ほんで、あにぁ、或る時、あねこあどさ、 にぎり飯 (まま) にぎらへで、
「今日ぁ、俺ぁ金山さ用たしん行てくっさげぁぇ、少すおそぐなっがしんねぁ」
 て、出がげだふりして、裏がら廻わて、梁の上 (ゆえ) さあがて、そっとあねこぁなん ずするおんだがみっだど。
 ほしたば、あねこぁ、あにぁ出はっと直ぐ、五升もある位 (ぐれあえ) の米磨ぎ始めだけ どや。あにぁ梁の上で、
「あれぁあれぁ。あんげぁぇ米磨えで何するおんだべ」
 と思 (も) て見っだど。ほしたば、ほの米、鍋さ入 (へ) っで、炊ぐなたけど。あにぁ、
「あらあらっ、あんげぁぇ飯たえで、なんずするおんだべ」
 てみっだら、ほのうづん飯出来 (でげ) で、あねこぁほの飯にぎり始めだけど。
 ほうして、にぎり飯出来だら、こんだ、自分 (おあ) 頭の髪の毛、真中がら分 (わげ) だけど。 ほうしたば頭さ、大っき口あんなだけど。ほれぁ鬼婆んばだぁだけど。んだおん ださげぁぇ、あにぁおかねぁぐなて、ふるえできたども、先づ、だまって見っだ ど。ほうしたば、鬼婆んば、ほの大っき口さ、にぎり飯一 (しとっ) つづづ、すとんすとん ど落してぁ食い、落してぁ食いすんなだけど。ほうして、ほのにぎり飯みな食て しまうど、囲炉裏端 (ゆりばだ) さごろっと寝でしまたけどは。
 ほんで、あにぁこのこめんだどもて、梁がらそっと下りで、日ぁ暮 (く) っでがら、 「今 (えま) 、来た」て、家さ行たけど。ほうして、鬼婆んばのあねこぁどさ、
「あねこ、あねこ。お前 (めあえ) なんぼしたて子供 (おぼこ) 生 (な) さねはげぁぇ、家さ戻てころは」
 て追 (ぼ) だしかげだど。
 ほうしたば、鬼婆んば、あにぁ顔だまって見でで、こんだおかねぁ顔して、あ にぁどごにらめで、
「このしぴたれ野郎ぁ、俺ぁ飯食うどごみっだな。んだら、今度ぁ、お前 (んつ) あどご も食てくえる」
 ていうど、鬼婆んば本性あらわして、髪かぷて、大っき口開えで、長んげぁぇ 爪のある手ひろげで、あにぁどさ、かがて来たけどやー。あにぁおかねぁくて、 おかねぁくて、逃 (ね) げだど。んでも、なんぼ逃げでも、
「この野郎待でー。この野郎待でー」
 て、うすろがら追 (ぼ) かげでくるおんだはげぁぇ、ふるえながら走したど。んだて、 なんぼ逃げでも、
「この野郎待でー。この野郎待でー」
 て、何処までも追かげくんべ、あにぁ疲 (こわあえ) ぐなてしまて、しょうぶど蓬やらさ隠っ だど。ほしたば鬼婆んば、
「あらっ、今ほご逃げで行ぐげぁ、何処 (ど) さ行ぎあがたおんだべ」
 て、あっつこっつさがしったけど。んでも、とうどう見つけかねぁで、山の方 さ行てしまたけどは。
 ほれがらじゅおのあ、五月節句にぁ魔除げだて、軒さしょうぶど蓬さすよんな たあだど。とんぴんからんこぁねぁっけどは。
(話者 高橋良雄)
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