30 屁っぺり爺むがしむがしあったけどせぁぇ。あるどごさなぁ、貧乏だ貧乏だ爺さまど婆さまいだけどせぁぇ。爺さままだ、毎日山さ行(え)て、薪集(あづ)べぁ、婆さまどご喜ばへだりして暮していだけどせぁぇ。 ある時なぁ、爺さまぁ、 「婆さま、婆さま、今日も天気ぁええはげぁぇ、沢山(えっぺあ)とてくっさげぁぇなぁ」 て、出がげで行たど。婆さまぁ、爺さま年寄(としょ)りなんだし、 「んだが、んでぁ、気つけで行てこえちゃ」 て、見送てやたど。 爺さまぁ、山さ、「どっこえしょ、どっこえしょ」て言(ゆ)いながら登て行ぐけど。ほうして、あっつ眺め、こっつ眺めしながら、ぎっこ、ぎっこど木伐ったけどせぁぇ。ほうして木伐ったば、下の方がら、 「ほごで木伐る者(おの)ぁ、何者(だれおん)だ」 て、誰が叫がぶけどせぁぇ。爺さま驚(どで)して下見だば、殿さまいだけど。ほうして、 「ほごで木伐る者ぁ、何者だ」 て叫がぶど。爺さまぁ、殿さまに怒(ごしゃ)がっだど思(も)て、恐ねくて、ぶるぶるふるえながら、 「長者どの屁っぺり爺だ」 て言(ゆ)たど。ほしたら殿さまぁ、 「んだら、一つたっでみろ」 ていうけずおん。んだら、ていうど、爺さま、 ちちん ぷいぷい にしきさらさら ごようの松原 ぶー ど、すこでぁま大っき屁たっで見へだど。ほしたら殿さまぁ、 「あんまり上手(じょん)だ、もう一つたっでみろちゃ」 ていうけど。ほんで爺さまぁ、んだがていうど、また、 ちちん ぷいぷい にしきさらさら ごようの松原 ぶー ど、やて見へだおんださげぁぇ、殿さま面白(おもへ)がて大喜びしたど。ほうして、ごほうび沢山(でっつら)爺さまさ呉っだけど。爺さま家さ帰(けあ)ぇて来て、婆さまどさ、 「婆さま婆さま、まずまず見ろちゃ。殿さま屁たっでめへろていうおんだはげぁぇ、たっでめへだば、面白どて、こんげぁぇごほうび呉っだけ」 どて、婆さまどさ見へだば、婆さまぁ、 「なんだて、屁たっだばりで、こんげぁぇごほうび呉っだけどご」 て、二人ぁ大喜びしったど。 ほしたば、ほごさ隣りの欲ばり爺ぁ来たけどせぁぇ。ほうして、 「なえだて、二人(したり)してめっぽう喜んだおんだな。なしてほんげぁぇ喜でいるおんだや」 て聞くけど。ほんで爺さまぁ、 「今日、おれぁ、山で木伐ったば、殿さま来て、ほごで木伐る者ぁ、何者だていうはげぁぇ、長者どの屁っぺり爺だて言(ゆ)たば、んだら一つたっでみろていうけなよ。ほんでおれぁ、ちちん、ぷいぷい、にしぎさらさら、ごようの松原、ぶーどたっでめへだなよ。ほしたば殿さま面白どて、喜で、ごほうび沢山(てっつら)呉っだおんださげぁぇ、婆さまど二人ぁ、大喜びしったどごだ」 て教(お)へだど。ほしたば、隣りのよごばり爺んじぁ、 「ほれぁええごど聞(き)だ。んだら、おらぁ、明日行てみねぁんねぁ」 て行たけど。 隣りのよごばり爺んじぁ、次の日起っどすぐ山さ行て、だきん、だきんど木伐りながら、殿さま来んな待つっだけどせぁぇ。ほうしていだば、ほごさ殿さま来たけど。ほうして、 「ほごで木伐る者ぁ、何者だ」 て、やっぱり叫がぶけど。ほんで欲ばり爺んじぁ喜で、 「屁っぺり爺だ」て言(ゆ)たば、殿さまぁ、 「んだら一づたっでみろ」て言たおんださげぁぇ、爺さまがら聞だとおり、 ちちん ぷいぷい にしぎさらさら ごようの松原 びびー、びー。 どしたど。殿さまぁ、ほれ聞て、なんだが妙(おが)し、こ汚ねぁ音だよだど思(も)て、 「今のぁ、おかしぞ。も一ぺんたっでみろ」て言(ゆ)うけど。ほんでまだ、 ちちん ぷいぷい にしぎさらさら ごようの松原、ていうど、 「びびーびーびびー」 て、先だんなよりひでぇ音さへでしまたけどせぁぇは。 ほうすっど殿さま怒て、 「この糞たれ爺んじぁ、こ汚ねぁ屁たれあがて、引張り出して、叩ぎづけろ」 て、縄でふんずべぁらっで、沢山(すこだま)ただがっだけどは。ほうして殿さまぁ、 「こら爺。欲ばて人の真似すっさげぁぇ、ろぐだごどぁねぁなだ。こんたごどしたて駄目だぞ」て、沢山怒(ごしゃ)がっだおんださげぁぇ、欲ばり爺んじぁ、 「今度(だ)から決っしてしあへんさげぁぇ、どうが許してころ」 て、べそかぎながら謝またけどせぁぇ。ほうして本当の屁っぺり爺ぁ、金持づんなて、婆さまど幸福(しっしゃわへ)ん暮したけど。とんぴん からんこぁ ねぁっけどは。 (集成一八九「屁ひり爺」) |
〈話者 高橋ミヨ〉 |
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