24 猿むがし

 むがしあったけど。
 あるどさなぁ、娘三人もた爺さまぁいだけど。ほうしてなぁ、ほの年ぁ雨ぁ降らねぁ年で、んだおんだはげぁぇ、雨降らねぁど、田こぎりも、代(しろ)かぎもさんねぁぐなたけどは。
 ほうして、爺さまぁ沢田(さわだ)なんずだべど思(も)て、沢の方さ行(え)てみだど。ほしたば、沢田さもさっぱり水ぁかがらねぁぐなてだけどは。
 ほんで爺さま困て、
「こんげぁぇ何日(えつか)も雨の降らねぁ年ぁねぁおんだ。まづ、困たおんだ。これだば沢田せぁぇも、田こぎりも代(しろ)かぎも出来(でげ)ねぁ。誰が雨降らへでくえる人ぁいねぁんだが。雨降らへでくえれば、娘三人のうづどれでも嫁んくえんども」
 て、爺さまぁ、一人ごど言(ゆ)てだけど。
 ほうしたば、ほごさなぁ、猿ぁ出はて来て、
「爺さま、爺さま。心配すんな。雨なの、おれぁ降らへでくえっさげぁぇ」
 つけど。ほんで爺さまぁ、
「ほう、猿、お前(んつ)ぁ、雨なの降らへれんなが」
 て言(ゆ)たば、猿ぁ、
「雨ぐれぁぇ、おれだて降らへれるや。雨降らへだら嫁こくえっがや」
 つけど。ほんで爺さまぁ、猿なの、なんずして雨なの降らへれるばや、ど思(も)たはげぁぇ、
「ん。雨落らへでくえっごったら、娘嫁んくえんべ」
 て言(ゆ)たど。ほしたば猿ぁ、
「んでぁ、明日必ず雨降らへでくえっさげぁぇな」
 て、山の方さ行(え)たけどは。ほんで爺さまぁ、猿ぁ、あんたごど言(ゆ)たたて、なんずして雨なの降らへれるおんでねぁ、ど思(も)ていたど。
 ほうして、次の朝まん、なんだか雨ぁ降てだみでぁぇだど思(も)て目さましたば、本(ほん)当(とん)雨ぁ降ってだぁだけど。ほんで爺さまぁ、やっぱり猿ぁ雨降らへだな、これぁ困たごどんなてしまたて、困てしまていだけど。ほうして、これぁ困たごどんなたど思たば、起ぎらんねぁぐなては、布団かぷて寝っだけどは。
 朝飯(みし)時分なても、爺さまぁ起ぎてくっじゃねぁおんだはげぁぇ、姉娘ぁ、爺さまどご起ごしん来たけど。
「爺さま、爺さま。今朝まだなえだおんだや。早く起ぎで飯(まま)食てくっちゃは」
 て、言(ゆ)たべ。ほしたば爺さまぁ、
「おれぁいうごきぐがや。きぐごったら起ぎで飯食う」
 て言(ゆ)たべ。ほしたば姉娘ぁ怒(ごしゃえあ)で、
「馬鹿くせぁぇごどばり言(ゆ)て、猿の嫁なの誰ぁなるんだて、このくっさ爺んじぁ」
 ては、ぷんぷんて怒で、爺さま枕けどばして行てしまたけどは。爺さまも、仕方ねぁど思(も)て、まだ寝っだけどは。
 ほのうづん、今度(だ)二番目の娘ぁ来たけど。ほうして、
「爺さま、爺さま。早く起ぎで、飯(まま)食てころは」
 ていうけど。爺さまぁ、まだ二番目の娘ぁどさも、
「お前(めあえ)、おれのいうごどきぐがや、きぐごったら起ぎで飯食う」
 て言(ゆ)たど。ほしたば、
「今日ぁまだなえだや、いうごどきがねぁば起ぎねぁなて、なんたいうごときげばえなや」
 つけど。ほんでまだ爺さまぁ、
「日照りで雨降らねぁくて困て、雨降らへでくえれば、誰ぁどさでも娘嫁んくえるていたべ。ほしたればほれ、今朝猿ぁ雨降らへでくっだなよ。んだはげぁぇ困て寝ったぁだ。お前猿の妻(わけあえ)なてくえらんねぁが」
 て言(ゆ)たら、二番目も怒では、
「このくそたれ爺んじぁ、猿の嫁なて糞くらへだ、馬鹿爺だ」
 どて、ただぶんぶん怒で、爺さまどさありったげ悪態つで行てしまたけどは。爺さまぁ、仕方ねぁくて、まだ布団かぷて寝ったどは。ほしたば、ほごさ今度(た)は末娘ぁ来て、
「爺さま、爺さま。なえだて何時までも寝てるおんだちゃな。まづ、起ぎで飯食てころは」
 ていうけど。爺さまぁ、
「んでぁ、おれぁいうごどきぐがや。んねぁば起ぎらんねぁ」
 て言(ゆ)たど。ほうしたば末娘ぁ、
「なえだて今日ぁ、おがしごどいうおんだ。いうごどなの何時でもきでんべや。なえだや、言(ゆ)てみろ」
 ていうけど。んでも爺さまぁ、どうへ駄目だべど思たども、末娘ぁどさも言たど。
「実(ずず)ぁなぁ、近頃何日(えつか)も雨ぁ降らねぁべ。ほんで田さ、さっぱり水ぁかがらなぐなて、困てしまて、雨降らへでくえる人(しと)ぁいれば、誰ぁどさでも娘くえんどもなぁ、てしとりごどゆてだべ、ほしたば、猿ぁ今朝雨降らへでくっだなよ。ほんで困て寝っだなだ」
 て言(ゆ)たど。ほしたば末娘ぁ、
「なぇだて爺さまや、ほんたごど困らねぁたてえ。おれぁ猿どさ嫁ん行てくえっさげぁぇ。まず、起ぎで飯食(け)は」
 ていうけど。ほんで爺さまぁ安心(どっか)どして起ぎで飯食たけど。
ほうして、末娘ぁ、猿の妻(わけあえ)なて、山の奥さ猿ど行たどや。
ほれがら末娘ぁ嫁んえぐど三日目ん、ほら、三つ目ていうべ、嫁ぁ実家さ聟(あに)どご連(つ)で帰(けあ)ぇんべ。ほんで末娘も三日目ん、聟に餅つでもらて、里帰(げあ)ぇりするごどんしたど。
 ほうして、餅ぁつげっど猿の聟ぁ、
「この餅何さ入(へ)っで行(え)ぐや。丼が重箱(じゅっこ)が」
 て聞ぐけど。ほしたば嫁ぁ、
「丼なの重箱さなの入っど、おれぁ家(え)の爺さまぁ、丼臭せぁぇの、重箱臭(く)せぁぇのて食(か)ねぁはげぁぇ、臼まま背負(しよ)て行(え)てころは。取てくんねぁが。あんまり綺麗だはげぁぇ、持て行(え)て、死だがが(母)どさ上(あげ)っでぁはげ」
 て言(ゆ)たど。ほしたば猿ぁ、
「でやでや」ていうど、背負てだ臼下ろすどごだけど。ほしたば嫁ぁ、
「あにあに、臼土の上(ゆえ)さ下ろすど、爺さまぁ、土臭せぁぇどて、食(か)ねぐなっさげぁぇ背負たまま取て来てころ」
 て言(ゆ)たど。ほんで猿ぁ、
「んだが、んだが」
ていうと、臼背負たまんま、川端(ばだ)の崖んどさ行(え)て、手伸ばして、
「これがぁ」
 て叫がぶけど。ほんで嫁ぁ、
「んねぁ。も少す先んなよ」
て言(ゆ)わっで、猿ぁ、ほの先んな取るかんじょして、まんさぐの木さ寄かがて、ありったげ手伸ばしたけど。ほうすっど、まんさぐぁ細えべ。ほれさ猿ぁ重でぁぇ臼背負ったべ。んだおんだはげぁぇ、まんさぐぁ、がりがりっど折っでしまて、猿ぁ、下の川さ落ぢてしまたけどは。ほうしたば猿ぁ川の中で、
    猿沢に流るる命は惜しぐなけれども
      あどに残りし 姫を惜しからん
 て言(ゆ)いながら流っで行ぐけど。とんぴん からんこぁ ねぁっけどは。
(集成一〇三「猿聟入」)
〈話者 船生カネヨ〉
>>及位の昔話(三) 目次へ