23 猿むがしむがしあったけどむがしなぁ、あるどさ娘(あね)こ三人もた爺さまいだけど。爺さまぁ田えっぺぁ持ったおんださげぁぇ、毎(めあえ)朝田まわりすんなだけど。 ほうしてなぁ、ほの朝まも田まわてみだど。ほしたば、何日(えっか)も雨ぁ降らねおんだおん、田乾(かわ)ぁぇでしまては、稲ぁ枯れそだけどは。爺さま困てしまて、何処(ど)からが水引がねぁば、稲ぁ枯れるばんだはで、あちこち見だども水なの引がれそだどこぁのねぁけど。 ほんで爺さま困ては、 「誰がおれぁ家(え)の田さ、水かげてくえる人(しと)ぁいねぁんだが。水かげてくえっごったら、三人いだ娘(あね)こ、どれが嫁んくえんどもなぁ」 て、一人(しとり)ごと言(ゆ)てだど。 ほうしたば、ほごさ側の藪がらがさがさど音(おと)さへで、猿こぁ出はて来たけど。 ほうして、「爺さま、爺さま。今(えま)言(ゆ)たごどぁ本当だがや」つけど。ほんで爺さまぁ、まさが、猿こなの、この田さ水なのかげれるわげぁねぁべど思たはげぁぇ、 「んだんだ、沢の水でも、塩(しよ)根(ね)川(が)の川の水でも、この田さえっぺぁ水せぁぇもかげでくえれば、誰ぁどさでも娘(あね)こ呉へる」 て言(ゆ)たど。ほうすっど猿こぁ、 「嘘(ずほ)んねぁべな爺さま」て念おすけど。ほんで爺さまぁ、 「嘘なのこがねぁ。本当のごどだ」 て、爺さま言(ゆ)たば、猿こぁほこほこて喜で、沢の方さ、どんどど走してえたけどは。 次の日、爺さまぁ、まだ田まわりんえたど、ほしたば、田さえっぺぁ水ぁかがったけど。爺さまどでしてしまたけどは、ほごさ猿こぁ、まだがさがさど出はてきて、 「爺さま、爺さま、田さ水かげでくっだはげぁぇ、約束の嫁こ、明日もらいん行(え)ぐさげぁぇな」 ていうけど。ほんで爺さまぁ、田さ水かげでもらたなえども、まさが猿こにかげでもらうどなの思わねぁがったし、猿こぁどさなの、娘こ呉えるよんなるど思わねぁがったおんだはげぁぇ、爺さま困てしまたけどは。ほんでは、爺さまぁ、家(え)さ行(え)て、布団かぷて寝でしまたけどは。 ほうして、次の朝まんなても爺さまぁ、起ぎてくっじゃねぁけどは。あんまり爺さまぁ起ぎてこねぁおんだはげぁぇ、姉だな起ごしん来たけど。ほうして、 「爺さま、爺さま、まず起ぎで飯(まま)食てころは」 て、爺さまどご起ごしたども、爺さま起ぎねぁけど。ほんで、 「爺さま、爺さま、どごがえぐねぁなが」 て聞いだば、爺さまぁ、 「実(ずず)ぁ、田さ、さっぱり水ぁかがらねぁで、稲ぁ枯れそだけはげぁぇ、田さ水かげで呉えっごったら、娘(あね)こ嫁んくえる、て言(ゆ)たら、猿こぁえっぺぁかげでくっだおんだはげぁぇ、お前(めあえ)だ、猿この妻(わげあえ)なのならねぁべし、ほんで困て起ぎらんねぁなだ。お前行(え)て呉(く)えらんねが」 て言(ゆ)たど。ほしたら姉娘ぁ怒(ごしゃえあ)で、 「なえだどや、爺。誰ぁ猿の妻なのなるんだて」 て、ただぷんぷ怒で、行(え)てしまたけどは。 爺さまなぁ、困てしまて寝っだずおんは。ほしたば、爺さま起ぎでこねぁおんだはげぁぇ、二番娘(こ)ぁ起ごしん来たけど。 「爺さま、爺さま。早く起ぎで、飯(まま)食(け)は」 て言(ゆ)たど。ほんで爺さまぁ、二番娘だはいうごどきぐんねぁべがど思(も)て、 「田まわり行(え)たば、何日(えつか)も水ぁかがらねぁぐなてしまたおんだはげぁぇ、稲ぁ枯れそんなてしまたなよ。んだはげぁぇ、おれぁ、家(え)の田さ水かげでくえれば、誰ぁどさでも娘こ嫁んくえる、て言(ゆ)たら、猿こぁえっぺぁかげでくっだおんだおん。んだはげぁぇ、困て寝てだなだ。んだはげぁぇ、お前(めあえ)猿この妻んなてくえらんねぁが」 て聞だど。ほしたば、二番娘(こ)も怒で、 「爺っ、あんまり馬鹿くせぁぇごど言(ゆ)わねぁんだな。なえだどて、人(しと)ぁ猿の妻(わげあえ)なのなるえどご。ほんたごどぁ世の中にねぁべな」 て、怒で怒で行(え)てしまたけどは。 ほんで爺さまも、娘こぁだ怒ぐな無理もねぁて困て、まだ布団かぷて寝っだけどは。ほごさ、今度(だ)ぁ末娘(こ)ぁ来て、 「爺さま、爺さま。なして起ぎで飯食(か)ねぁや。どごがえぐねぁなが」 ていうけど。んでも爺さま返事しねぁけど。ほしたら末娘ぁ、 「どごが痛でぁなが。痛でごったらさすてけっが」 て、やさしごどいうけど。ほんで爺さまぁ、 「どごも痛でぁどごなのねぁなだ。ただ困ったごど出来(でげ)だはげぁぇだ」 て言(ゆ)たど。ほうしたば、末娘ぁ、 「なんだや、ほの困るごどて、おれで出来(げ)んなだばなんでもすっさげぁぇ、言(ゆ)てみろちゃ」 ていうおんだはげぁぇ爺さまぁ、 「実ぁなぁ、山田さ水ぁかがらねぁくて、稲ぁ枯れそえなたおんだはげぁぇ、困て、この田さ水かげでくえれば、誰ぁどさでも、娘(あね)こくえる、て言(ゆ)たら、猿こぁえっぺぁかげでくっだなよ。人だはげぁぇ困てだぁだ」 て言たど、ほしたば末娘こぁ、 「爺さま、爺さま、ほんだごど困んな。おれぁ猿の妻(わげあえ)んなっさげぁぇ、まず起ぎで飯ばりも食(け)は」 ていうけど。ほんで爺さまぁ安心(どっか)どして、飯食たけど。ほうしているうづん、猿こぁ来て、 「爺さま、爺さま。約束の嫁こ貰いん来たぞ」 て来たずおん。ほんで爺さまぁ、 「ほっがほっが。んでぁ、まづ、入(へあ)れ入れ」 て、猿こぁどこ入(へあ)らへで、祝(ゆわえ)事(こど)の餅(もづ)つでくっで、盃事して、 「この餅持て行(え)て、二人(したり)して食(け)よ」 て言(ゆ)たど。ほしたら猿こぁ、 「んでぁ、重箱さでも入(へ)っでもらて行(え)んか」 て、嫁こぁどさ言(ゆ)たば、嫁こぁ、 「重箱さなの入(へ)っど、重箱臭ぐなっさげぁぇ食んねぁぐなる」 ていうけど。ほんで猿こぁ、 「んでぁ、丼さでも入(へ)でもらうが」 て言(ゆ)たば、嫁こぁ、 「丼さ入(へ)っど、丼臭せぁぇくて食(か)んね」 て言(ゆ)たべ。ほしたら猿こぁ、 「んでぁ、臼まま背負て行(え)ぐべは」 て、臼まま背負て、嫁こ連(つ)で山さ行たど。 ほうして、だんだん山さ入(へあ)て行たば、下の方ぁ川で、崖んなてる上(ゆえ)さ春さぎだおんださげぁぇ、美(うづぐ)す桜咲(せあ)っだけど。あんまり美す桜だおんださげぁぇ、嫁こぁ、猿こぁどさ、 「聟々(あにあに)、あの桜あんまり美すはげぁぇ、一枝(しとえだ)取てころちゃ」 て言(ゆ)たば、猿この聟(あに)ぁ、 「でやでや(そうかそうか)」ていうど、背負てだ臼おろすどごだけど。ほんで嫁こぁ、 「あにあに、臼土(つづ)の上(ゆえ)さおろすど、餅ぁ土臭(く)せぁぇくて食(か)んねぁぐなる」 て言たば、猿こぁ、「んだが、んだが」て、背負ったまま、桜ぬ木(ぎ)さ登て行たど。ほうして、上さ行(え)て、「これがぁ」て叫(さが)ぶけど。ほんで嫁こぁ、「もと上んなよ」ていうおんだはげぁぇ、猿こぁ、まだ難儀して上さ登て、「これがぁ」て叫ぶずぁん。ほしたば嫁こぁ、「んねぁ、もと梢(うらぺ)んなよ」て言(ゆ)たど。ほんで猿こぁ、まだ重でぁぇ臼背負て、ずっと梢さ登て、ゆらゆらさへながら、梢の細こえどごまで登て、「これがぁ」て、まだ叫ぶずおん。ほんで嫁こぁ、 「んだんだ。ほの細こえなよ」 ていうど。猿こぁ、ありったげ手伸ばして、ほれ取るかんじょしたべ。ほうすっど細こえ枝さ足かげっだべ。んだおんださげぁぇ、枝みりみりっていうど折っでしまて、猿こぁ、下の川さどんぶり落ぢで流っど行ってしまたけどは。どんぴん からんこぁ、ねぁっけどは。(集成一〇三「猿聟入」) |
〈話者 高橋良雄〉 |
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