21 茸の化げおの

 むがしあったけど。
 むがしなぁ、左道(みづ)さ行ぐ曲た坂道の林ん中さ、毎晩化け物(おの)ぁ出はてきて、一晩、
「おおしぇまで、おおしぇまで」
 て叫(さが)でんなだけど。ほんで、村の人(し)達(たぢ)ぁ恐(おか)ねぁくて、夜んまなっど外さ出はらんねぁぐなたけどは。ほうしてっどさ、何処(ど)からが、一人(しとり)の和尚さん、托鉢して廻わて来たけど。ほうして村の人達ぁどから左道の坂さ、毎晩化け物(おの)ぁ出はて、村の人達ぁ困てだ、ていう話聞だぁだけど。ほんでほの和尚さん、「んでぁ、おれぁ行(え)てみで来る」ていうなで、暗ぐなてがら、左道の坂さ行(え)てみたど。ほうしたば、やっぱり林の中で、
「おおしぇまで、おおしぇまで」て叫(さか)ぶ声ぁすっずおん。ほんで、ほの声のする方さ行てみだども、暗(くれ)ぁぇおんださげぁぇ、なんた化げ物だか分らねぁけど。ほんで和尚さんぁ、
「こらっ、お前(めあえ)ぁないの化げ物だ」
 て、大っき声で聞いだば、
「おれぁ、こごの主の化げ物だ。お前(んつ)ぁ、何(ない)の化げ物だ」
 つけど。ほんで和尚さんぁ、
「おれぁ、大坊主の化げ物だ。お前何が恐ねぁおのぁ、あるおんだが」
 て言(ゆ)たば、ほの化げ物ぁ、
「ああ、おれだて恐ねぁおのぁある。おれの一番恐ねぁな栗だ。饅頭(まんじう)だば大好きだども、栗だばみんなも嫌(や)だ」
 つけど。ほうして、
「ほんでぁ、大坊主の化げ物、お前(んつ)ぁ何が恐ねぁおのぁ、あんなだが」
 て聞ぐけど。和尚さんは、
「おれぁ一番恐ねぁな饅頭だ。饅頭だば、恐ねぁくて、見だばんで身ぶるいする」
 て言(ゆ)たば、
「ほぉ、不思議(おがし)おんた。あんげぁぇ美味(んめあ)え饅頭好ぎんねぁなて、んでぁ何好ぎだおんだや」
 て聞ぐけど。ほんで和尚さんぁ、
「おれの大好ぎだな栗だ。生栗ぁ大好物だ」
 て言(ゆ)たば、ほの化げ物ぁ、
「んでぁ、どうだや、明日の晩、おれぁ生栗持てくっさげぁぇ、お前、饅頭持てきて交換すねが」
 ていうけど。ほんで和尚さんぁ、これぁ面白へど思(も)て、
「ほれぁええな。んでぁ、明日の晩、饅頭持てくっさげぁぇな」
 て、ほの晩は別っだけど。
 ほうして次の日、和尚さんは村の人達ぁどがら、えっぺぁ栗もらて、ほれ懐(しとごろ)さ入(へ)で、暗ぐなてがら左道の坂さ行(え)て、「おおしぇ何処だ。おおしぇ何処だ」て叫(さが)たば、「おおしぇこごだ。おおしぇここだ」ていう声ぁすっずおん。ほんで和尚さん、ほの声のする方さ行(え)たど。ほうして、側さ行たば、化げ物ぁ、
「おれの好ぎだ、饅頭持てきたがや」
 つけど。ほんで和尚さんぁ、
「ああ、持てきた持てきた。ほらっ、これでもま食(くら)うんだ」
 て、懐(しとごろ)から栗つがで、ほの化げ物ぁどさ、ばえんばえん、どぶからみづげでやたど。ほうしたばほの化げ物ぁ、
「恐ねぁちゃ恐ねぁちゃ、ああ恐ねぁは。この野郎ぁ、おれぁどさ栗ぶからで、ああ痛ぁぇ、ああ痛ぁぇ」
 て叫びながら、和尚さんどさ、
「ほらっ、お前(んつ)ぁ恐ねぁ饅頭だっ。これでもまぐらうんだ」
 て、和尚さんどさ、饅頭ぶからでよごしたけど。和尚さん喜(よろご)で、ほの饅頭、えっぺぁ懐さ入(へ)で、
「ああ、饅頭だ。恐ねぁごど恐ねぁごど。ああ痛ぁぇは、ああ痛ぁぇは」
 て言(ゆ)いながら、化げ物ぁぶからでよごした饅頭、みな拾ろて、化げ物ぁどさ、生栗ありったげの力で、ばえんばえんどぶからでやたら、ほの内、化げ物の声すねぁぐなたけどは。ほんで和尚さんぁ、懐さえっぺぁ饅頭入(へ)っで村さ帰(けあ)えたけど。
 ほうして、ほの饅頭、村のわらしたづさ、みな呉っだけど。ほれがら次の日、明(あがり)ぐなっど、和尚さんぁ、左道の坂さ行てみたど。ほうしたば、林ん中に栗ぶっつけらっで、かささえっぺぁ穴開(えあえ)っだ大っき茸ぁ、ぐにゃっどぶったおっでだけど。ほの化げ物ぁ茸の化げ物だけど。ほれがらずおぁ、ほの坂さ化げ物ぁ出はらねぁぐなたけどは。とんぴんからんこぁ ねぁっけどは。
〈話者 高橋良雄〉
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