13 狐のお礼むがしあったけど。ずっとむかしなぁ、及位(のぞき)になぁ、杉之助ていう若(わがあえ)おのぁいだけどやぁ。村の人達ぁ、皆「杉、杉」ていうがったど。杉ぁ家ぁ貧乏でぁぇったおんだはげぁぇ、家(え)の人達ぁ皆働がねぁんねぁがったど。ほんで、杉ぁ、父(つあつあ)と母(がが)どさ難儀さへらんねぁて、一生懸命んなて、炭焼えでぁ、ほの炭背負(しょ)て、院内なの、湯沢あだりまで売りん行(え)てぁ、米買てきたり、魚買てきたりして、うんと働ぐがったど。ほうして、やさしくて、親孝行でぁぇったど。 ある時(づぎ)、杉ぁ、まだ炭背負(しょ)て、院内さでも売てくっがど思(も)て、雄勝の峠越えで出がげだど。ほうして、峠越して、下りで行(え)たら、右の沢の方で、狐こぁ、あわれだ声出して、うんと鳴ぐ声ぁすっずおん。杉ぁ、「なんだて、狐こぁ、めっぽうあわれだ声出してなぐおんだ。なんづがしたおんだべが」ど思て、むぞせぁぇぐなて、道(みぢ)端さ炭おろして、沢さ入(へあ)て行てみだど。ほしたば、狐こぁ、罠(おっちょ)さかがて、腰がら下の方挟まっでしまて、なんずもせねぁでは、泣(ね)ぁっだなだけど。杉ぁむぞせぁがて、 「なんだや狐こ、お前(んつ)ぁ、こんた罠(おっちょ)さなのかがて、ばがだなぁ、罠さなのかがたら、ただ殺さっでしまうばんだべ。よしよし。今(えま)助けで呉(く)えっさげぁぇな」 て、罠ひっぺがして、助けでくっだけど。狐こぁ、喜で、杉ぁどさ頭(あだま)こすりづげで、後みいみい山さ行(え)たけど。杉も、「おれに見つけらっで、えがったな狐こ」ど思(も)て、狐こぁ見(め)ねぐなるまで見っだど。 ほしてなぁ、杉ぁ院内で炭売て、戻て来たど。ほうして、峠んどごまで来たば、道端(みづばだ)の石さ腰掛げっだ娘(あね)こぁいだけど。杉ぁ、娘こぁ傍まで行(え)たば、娘こぁ、 「杉さん、杉さん」 て、杉ぁどご止めだけど。杉ぁ、「なえだて知らね娘こぁ、おれぁどご呼ぶおんだ」ど思いながら、 「なんですべ」 て聞だど。ほしたら娘こぁ、 「おれぁ、この辺りにいる狐だども、今朝まだおれぁ家(え)の狐こぁ助けでもらては、ほんとん有難どござりあした」 て、丁寧んこごまたけど。ほうして、 「おらぁ、お礼してぁぇども、なんにも持てねぁはげぁぇ、おれぁ、今(えま)、ええ馬こんなる。んだはげぁぇ、ほれ売てきてくんねぁが。ほれぁおれのお礼ですさげぁぇな」 ていうど、娘こぁ、くるくるっと三回まわたけど。ほしたば、ええ馬こんなて化げだけど。 ほんで、杉ぁ、ほの馬こ引張て、湯沢さ行(え)て、馬喰(ばぐろ)達(だ)さ見へだど。ほしたば、馬喰達、 「これだばええ馬こだ」 どて、高(たげあえ)ぐ買てくっだけど。ほんで、杉ぁ、えっぺぁ金もらて、家(え)さ帰(けあ)えて来たけど。ほうして、杉ぁ、父(つあつあ)ど母(がが)どさほの金やて、喜ばへだけど。 ほうして、次の日、まだ杉ぁ炭売りん出がげだずおん。ほして峠越して行(え)たば、まだ、昨日(きんな)の娘こぁいだけど。杉ぁびっくりして、 「えぐお前(めあ)けて来たおんだな」 て言(ゆ)たば、狐の娘こぁ、 「うん、馬喰ぁおれどご馬屋さ入(い)っど、そんま逃(ね)げできたなだ」 ていうけど。ほうして、 「杉さん、今度(だ)、床の間の置ぎ物(おの)んなっさげぁえ、湯沢さもてえて売てころ」 つけど。ほうして、まだ、くるくるっと、三回まわたば、立派だ雉の置ぎ物(おの)んなたけど。ほんで、杉ぁ、まだ、ほれ持(も)て、湯沢の金持の家さ行たど。ほうして、ほの置ぎ物、ほごの家の旦那さ見(め)へだど。ほうしたば、ほの旦那、ほれ見で、 「これぁてぁしたおんだ。すばらすおんだ。こんげぁぇええ物ぁ、めったん見らんねぁ。えぐおれぁ家さ持てきた呉っだ」 どて、しこでぁま高ぐ買てくっだけど。 杉ぁ喜(よろご)で、金でっつら貰て、ほれ背負て家さ帰(けあ)えて来たけど。 ほうして、まだ、ほの金、父と母どさ、みなぁ呉(く)っだけど。父も母もうんと喜で、 「恩返(けあえ)すなて、人(しと)せぁも余(あんま)りねぁな、狐こぁお礼するなて、まだ、聞(き)だごどぁねぁ。んでも、生きおんだおん、助けらっで、よっぽどありがでぁど思たあだべ」 て語りあったけど。ほれがら杉ぁ、金持(もづ)んなて、楽(らぐ)ん暮したけど。 とんぴん からんこぁ ねぁっけどは。 |
(集成二三三「狐と博労」)話者 高橋良雄 |
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