12 狐ど獺

 むがしあったけど。
 むがしなー、ある所(ど)さ狐ど獺ぁいでぁったど。ある時(づぎ)釣り人ぁ、川端歩(あり)てだば、なんだが話声ぁすっけど。ほんで、ほの人(しと)ぁ聞き耳(さずん)を立で聞っだば、狐ど獺たけど。
ほうして、狐ぁ獺どさ、
「獺さんや。二人(したり)して招(よ)び合い(くれぁご)しねぁがや」
 て言(ゆ)てだぁだけど。ほしたば獺ぁ、
「んだな、ほれぁ面(おも)白(へ)べな。んでぁ誰がらよぶや」
 て言(ゆ)たど。ほしたば狐ぁ、
「んだな。んでぁまづお前(めえ)がら招(よ)だらえんねぁが」
 て言(ゆ)たば、獺ぁ、
「ほっが。あんまりえ。んでぁ、あしたおれぁ家(え)さよばっで来(こ)えちゃ」
 ていうごどんなて、まづ、獺ぁ狐どご招ぶごどんして、獺ぁ川さ行(え)て、雑魚(ざっこ)がら、かつがから鱒まで捕(し)めぁできて、魚の煮づげだ、てんぷらだ、焼魚だ、てしこでま魚料理こしぇで、狐ぁどご待ぢっだど。
 ほうして、次の日なたば、狐ぁ、
「獺さん、獺さん、まづ、ずんぎなしょばって来あした」
 て来たけど。獺ぁ、
「良(え)ぐ来てくっだ。まづ入(へあ)れ」
 て、狐どご家(え)さ入(へ)っで、ごっつぉえっぺぁ出したけど。狐ぁ、
「なえだて魚捕り上手(じょん)だおんだ。これぁかつがのでんがぐが、じんぎなしごっつぉなりあす」
 ていうど、かづれぼえどみでぁん、片端がらむしゃむしゃど食うけど。ほうして、んめぁんめぁどて、夢中んなて食うなだけど。ほうして、腹えっぺぁなて、あどぁ入(へあ)らねぁくれぁ食て、げっぷしいしい、
「獺さん、とでもんめぁがった。こんげぁぇんめぁおの初めでごっつぉなた。おおぎんごっつぉさんでした。あした、おれぁ招ぶはげぁぇ、こんだ、おれぁ家(え)さ来てころ。山がら、雉なの兎なの捕めできて、ごっつぉすっさげぁぇな」
 て言(ゆ)て行(え)たけど。ほんで、獺ぁ、んでぁ明日(あした)まだ食たごどぁねぁ肉料理食うえ。
なんぼがんめぁおんだべなーど思(も)たば、夜んまもろぐん寝らんねぁくれぁ待ぢどしがったけど。
 ほうして、夜あげんな待ぢでで、夜あげっどすぐ、狐ぁ家(え)さ行(え)てみだど。ほしたば、狐ぁまだ寝っだけど。獺ぁ、
「狐さん、狐さん。ごっつぉながら来あした」
 て言(ゆ)たば、狐ぁどでして起ぎできて、
「あー、えぐきたえぐきた」
 て言(ゆ)いながら、囲炉裏(ゆるり)んどさ据(ねま)て、あどぁ、てんこら吹えで、天井板(うらいだ)ばりにらめで、動(えご)ぎもしねぁば、しゃべりもしねぁぐなてしまたけどは。獺ぁ、なんぼ大っき声で、
「狐さん狐さん、ごっつぉながら来あした」
 て、何べん叫がだて、知らねぁふりだけどは。ほんで、獺ぁ怒(ごしゃえ)で行(え)てしまたけどは。ほうして、暫(すばら)くしたば、狐ぁ獺ぁ家さ来て、
「獺さん獺さん、さぎだ、てんこら吹ぎあ、あだて、なんぼ返事しでぁぇたて、返事さんねぁくて、ぶじょほしあした」
 どて、詫びすっけど。ほんで、獺ぁ、
「ほんたごどあねぁ、ほんたごどあねぁ、なおたごったらえがった。ほんでぁあした行(え)ぐはげぁぇな」
 て言(ゆ)たど。ほうして次の日、獺ぁ又、狐ぁ家さ行(え)たど。ほうして、まだ、
「狐さん狐さん。ごっつぉながら来あした」
 て言(ゆ)たども、まだ、狐ぁ、前(めえ)の日どおんなじで、てんこら吹えだきり、動(えご)ぎもしねぁば、返事もしねぁで、据(ねま)たきりだけど。ほんで、獺ぁ怒(ごしえ)で、
「人んどご騙しあがて、おれぁごっつぉばりしこでぁままぐらて、おれぁ来っど知らねぁ振りしあがて、みでろ、この畜生(ちきしょ)ぁ何時(いづ)が仇とてくえっさげぁぇ」
 ど思(も)て、家(え)さ帰(けあえ)たけどは。
 ほうしているうづん、冬んなて、雪(ゆぎ)ぁ降るよんなて、寒ぐなてしまたけど。狐ぁ、雪ぁ降るよんなたば、捕るおのあ少(すぐ)なぐなて、腹へらして、今ごろ獺ぁなんずんしったべど思(も)て、川端さ行(え)てみだど。ほうしたば、獺ぁ、大っき鮭(よ)とて、川端で食ったけど。狐ぁ羨(けなり)ぐなて羨ぐなて涎流しながら見っだけど。ほうして、あんまり羨おんだはげぁぇ、獺ぁどさ、
「獺さん獺さん、めっぽう魚捕り上手(じょん)だおんだ。なんずんすっどほんげぁぇ捕るえおんだが、おれぁどさ教(おへ)ろちゃや」
 て言(ゆ)たど。ほんで獺ぁ、丁度え、今度ごそ仇とて呉(く)んねぁんねぁ、ど思(も)たども、知らねぁ振りして、
「お前なのほんげぁぇ立派だ尾(おっぱ)もてで、なによりじょうさねぁべや。うんと冷えっづぎ、川さ氷(すが)張んべ。ほうゆうづぎ、川の氷さ穴あげで、ほの穴さ尾(おっぱ)つこでやて、待ぢでっど、ほれごそ、すまがらねぁ程、食いたでらんねぁ程かがっさげぁぇ、冷(つみ)でぁぇな我慢して待ぢででみろ。ほへば、ほの尾だおの、おれぁなよりえっぺぁかがるんだはげぁぇ」
 て教(お)へだど。ほしたば狐ぁ、んだがんだがて喜(よろご)でいたけど。
 ほのうづ、川さ氷(すが)はて、うんと冷える日ぁあったけど。ほうすっど狐ぁ、ほこほこて喜で、川さ行(え)て、氷さ穴あげで、尾(おっぱ)っこで待ぢっだど。だんだん尾凍(しみ)できて、冷(つみ)でぁぇも冷でし、尾しめづげらっで、痛(いで)ぁぇも痛ぁぇども、これだば、なんぼがかがるんだがど思(も)て、我慢して待ぢっだど。ほうして、待ぢでるうづん、夜ぁあげそんなてきたけど。ほんで、少す尾引張てみたど。ほしたば、尾氷(しみ)づでしまたおんだはげぁぇ、抜げでこねぁべ。んだおんだはげぁぇ、狐ぁ、しったでらんねぁくれぁかがたど思(も)て、喜でいだけど。
 ほうしているうづん、夜ぁあげできたけどは。ほんで今度(こんだ)えがべど思て、ありったけ引張たど。ほんでも引張りあげらんねぁけど。ほんで、狐ぁ、獺さんが、引張(しつた)でらんねくれぁかがるて言(ゆ)たな、このごんだべど思て、喜で、
   ええちゃ ええちゃ
   獺さんが よいことおっしゃった
   大骨ぁ 抜げるよだ
   スココのココスコ
 て言(ゆ)ったけど。ほうすっど、村の人(した)達(づ)ぁ、なえだて川の方で朝まがら狐ぁめっぽう叫(さ)がぶおんだ、て聞っだけど。ほしたば、狐ぁまだ、
   ええちゃ ええちゃ
   獺さんが よいことおっしゃった
   大骨ぁ 抜げるよだ
   スココのココスコ
 て叫がぶけど。ほんで、村の人達ぁ、川の方さ行(え)てみだば、川さ尾入っでやて凍(しみ)づがっでしまて、人(しと)ぁ行(え)たおんだはげぁぇ、逃(ね)げるかんじょしたども、逃げんねぁで、すたぱたていだけど。ほうすっど、村の人達ぁ、棒(ぼぎなぎ)もてきて、狐ぁどご叩ぎ殺してしまたけどは。
 狐ぁ、獺に仇とらっだわげよな。んだはげぁぇ、ずほこえだり、人(しと)んどご騙したりさんねぁなよな。
 とんぴん からんこあ ねぁっけどは。
       
(集成三「川獺と狐」)話者 高橋キク
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