11 狐と狢の智恵くらべむがしあったけど。むがしな、赤倉に狐(きづね)ど狢(むづな)いでぁったど。この二匹ぁ、化げんなとでもじょんでぁったど。赤倉のしだづぁ、狐ぁころすざのごろ穴さ、巣作ているおんだはげぁぇ、〝ころすざのごろ狐〟て言(ゆ)てっがったど。ほうして、狢どごぁ、おへぐりむげぁぇの穴さ、巣つくているおんだはげぁぇ、〝おへぐりむげぁぇの狢〟て言(ゆ)ているおんだけど。 ある時(づき)な、おへぐりむげぁぇの狢ど、ころすざのごろの狐ぁ、沢でひょっこりいぎあたけど。ほんで、二匹ぁ、沢端さけっつつで、しゃべったけど。狐ぁ、 「やぁ、おへぐりむげぁぇの狢、なにが面(おも)白(へ)ごどあねぁがや」 つけど。狢、 「んだなぁ、近頃(つかごろ)ぁさっぱり面白ごどあねぁ、んでぁ、どっつあ化がすなじょんだが、智恵くらべでもしてみっが」 ていうけど。ほんで狐ぁ、 「ほれも面(おも)白(へ)な、おめぁぇも人(しと)化がすんな上手(じょん)だそだども、おれぁ、まだ見だごどぁねぁはげぁぇちょうどえな」 ていうごどんなて、智恵くらべすっごどんしたど。 ほうして、狢ぁ、 「んでぁ、誰がらするや」 てゆたば、狐ぁ、 「んでぁ、おれぁ先(さぎ)んおめぁどさえぐべ。」 ていうけど。 「んだが、んでぁあしたおめぁぇこえ」 ていうごどんなて、狢待じっだど。 次の日ぁ、朝まからずらずらど雨こぁ降ったけど。狢ぁ、 「はで、ころすざのごろ狐ぁ、今日来るつけぁ、なんずしてくるおんだべ」 どもていだど。ほうしたば、村の人(し)達(たぢ)の声ぁすっけど。 「おーえ。天気もえぐねぁし休みだべやー」 「うーん。今日ぁこんた天気だおん、休まねぁんねぁべやー」 「んでぁ、ただ休むもなんだ、おへぐりむげぁぇの狢でも捕(と)てきて、天気祭りでもして、飲(の)だらえがべ」 ていうおどぁすっけど。狢ぁ、 「なんだ、野郎(やろう)達(だあ)、おれぁどこ捕るかんじょしたて、穴ん中さ入(へあ)てれば、なんずして捕れるおんでねぁ」 どもていだば、たづまづ来たおどぁすっずおん。ほんで、狢、ごそごそ穴さ入(へあ)てえてかぐっでだど。 ほうしたば、がづがづど穴んどご掘り出したけど。 「なんぼ掘ても出はてこねぁ、この畜生(ちきしょ)あ。三次、お前(にし)ぁ家になんばねぁがや」 「あー、あるある」 「んでぁ、なんば持(も)て来(し)て、なんばえぶすかげろちゃや」 ていうずおん。ほうして、なんば持(も)って来(し)て、なんばえぶす始めだけど。 狢ぁなんばえぶすかげらっで、どうどど鼻水ぁ出るんだが、へづねぁおんだはげぁぇ、のびで出はてきたけど。ほしたば、穴のそばで狐ぁ、 「おえおえ、どうした」 つけど。ほんで、狢ようやぐ気あっで、 「あー、えまや村の野郎だに殺さえるかんじょしたば、おめぁやた仕事がや。あのひでーにおえあないなおんだや」 てきだば、狐ぁ、 「あーあれが、あれぁ狐のかすみ屁(ぺ)ずおんだ」 「やー、あのにおえでぁ、すんでん参っどごでぁぇったは。狐や、お前(にしゃ)にぁ、んまぐ騙さっだな。んでぁ、こんだおれだ。あした行(え)ぐぞ」 ていうけど。 ほうして、今度(こんだ)ぁ、ほの次の日、ごろの狐ぁ、 「はで、おへぐりむげぁぇの狢、今日来る筈(はん)だ、なんたごどして来るおんだべ」 と思(も)ていたど。ほうして、あんまりええ天気だおんだはげぁぇ、穴がら出はて日なたばこしったど。ほうしたば、犬二匹つで、鉄砲(てっぽ)ぶづぁのっこのっこど此方(こっちゃ)来っずおん。 「なぁに、あんたおのあだ来たたて、おれぁ穴さ入(へ)ぁてればなんてもね。ほんたおのあ」 どもているうずんは、犬あわんわんて来て、穴さ逃(ね)げしめん、穴さ入(へあ)っが入らねうずん、後足(ともあし)くわがっで、しとふりぶち振らっでしまて、ほんでは、狐ぁのびでしまたけどは。 ほうして、ようよう起(おぎ)でみだれば、鉄砲ぶづだどおもたな、ほれぁ狢だけど。 「やーや。鉄砲ぶづに、あぶねぁぐ捕(し)めらえるかんじょしてぁぇったはや。お前(めあ)も相当やるおんだな」 て、したりぁ笑たけど。 これが狢ど狐の智恵くらべで、どっちあどっちてもゆわんねくれぁじょんで、勝負あつがねがったけど。とんぴん からんこあ ねぁっけどは。 |
(集成二八七「狐と狸の化比べ」)話者 栗田三次郎 |
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