8 馬鹿聟ばなしむがしあったけど。あるどさな、ほれごそ馬鹿だ男あいでぁぇったど。ほの男ぁ嫁こもらたけど。ほんで、節句(へっく)んなて、嫁の実家でぁ初節句だはげぁぇて、聟あどご招ばたど。 ほんで、聟あ初節句で行(え)ぐ時(づぎ)ぁ、なんずん言(ゆ)て行たらえべ、ていうなで、誰ぁどからが聞がねんねど思(も)て行(え)たど。ほうしたば、向うの畑に百姓ぁいで、種蒔ぎしったけど。ほれで、馬鹿聟ぁ、ほの種蒔ぎしったなさ、 「聟あ、初節句で行ぐ時(づぎ)あ、なんずん言(ゆ)て行たらえべ」 て、大っき声で聞だど。ほしたば、ろぐに聞げねおんだはげぁぇ、 「この種でもおしなが」 ていうけど。ほんで馬鹿聟あ、 「ははぁ、こういう時あ、この種でもおしながていうどええおんだんだな」 どもて、嫁の家(え)さ行(え)たど。ほうして、座敷さ上がっど、 「この種でもおしなが」 て、百姓ぁしたみでぁぇん、手あげだけど。ほれ聞ぐど、嫁の親達(たづ)ぁ、どてしてしまて、こげぁぇ、馬鹿だ聟さ娘くえんな、んねがったど思たども、まず、しかだね、御馳走してけぁぇしたけど。 ほれがらある時(づぎ)、嫁の実家で、新(あだら)し家(え)建でだはげぁぇ、て聟あどご招ばたど。聟ぁ行ぐ時、村のものしりんどさ行(え)て、なんずん言(ゆ)て行たらえべて、聞だど。ほしたば、 「まずな、大変えぐ出来(げ)あしたな、て言(ゆ)いながら、床の間がら、あっつこっつまんべんなぐ見で、節のあっどご見つけだら、この節んどごさ、お掛図でもかげっどえんだなて、いうおんだ」 ていうけど。ほんで馬鹿聟あ、嫁の家さ行(え)て、床の間がらあっつこっつ、まんべんなぐ見でがら、 「大変立派んでげぁしたな。んでも、この節んどさ、お掛図でもかげっど、なおえげぁすべな」 て言(ゆ)たど。ほんで、嫁の親達ぁ、 「馬鹿だどおもたら、まんざらの馬鹿んねな」 ど思て、ごっつぉしてよごしたけど。 ほれがら、まだ、すばらぐすっど、嫁の家でぁ、こんだ馬こ買たはげぁぇ、みんきてころて言(ゆ) てよごしたけど。ほんで、馬鹿聟あ、こんだなんたごど言(ゆ)て行(え)たらえがべ、誰がさ聞ぎでぁおんだど思たども、聞ぐ人(しと)あいねおんだはげぁぇ、聞がねでえたど。 ほうして、嫁の実家さ行たべ、ほしたら馬めへらっだべ、ほんで、なでだりさすたりして、うすろさ廻たけど。ほん時(づぎ)馬さ虻あきたけど。ほんで、馬ぁ尻尾(おっぱ)振たべ、んだおんだはげぁぇ馬のけっつ穴見だけど。ほうすっど馬鹿聟あ、 「たいへん立派だ馬ですな。んでも、こごさお掛図でもかけでおぐどえんだな」 て言(ゆ)たど。ほんで、嫁の親だづぁ、これぁよっぽどえ馬鹿だおんだなて思たど。 ほうしてるうづん、晩方なて、ごっつぉなるごどんなたけど。ほうすっど嫁ぁ、 「兄んつぁ兄んつぁ、よげだごどぁ、けっして言うなよ。おれぁひっぱたら唄えはえし、おれぁつねたら踊れ。あどぁよげだごどしねで見でろよ」 て言(ゆ)てきがえだど。ほしたば馬鹿聟あ、 「んだが、んだが」て、大人しぐしったど。 ほうしてるうづん、ごっつぉぁ出はてきて、お吸物も出はてきたべ、ほしたば馬鹿聟あ、ほれ食ったけど。ほうして、 「この味噌汁ぁ、んめぁぇごど、んめぁぇごど」 てほめだけど。ほんで嫁ぁ、ほのあどなに言(ゆ)われっが分らねど思(も)て、聟あ袖ひぱたど。ほしたば馬鹿聟あ、袖ひっぱらっだおんだはげぁぇ、てっきり唄えてだど思(も)て、ほれごそ下手だ唄うだい始めだけど。ほんで嫁ぁ恥がすおんだはげぁぇ、こんだ聟あどごつねったど。ほうすっど聟あ、これぁ踊れていうなだべどもて、踊りだしたけど。ほれもぶかっこ踊りだおんださげぁぇ、嫁の家 (え)でぁ、こげぁぇ馬鹿だ男さ、娘くっでらんねていうなで、ほの馬鹿聟あ、たぁだ嫁とらつでしまったけどは。とんぴん からんこぁ ねっけどは。 |
(集成三三六、三三九、三四四「聟の挨拶」「馬の尻に札」「謠の合図」) |
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