6 天狗むがしむがしあったけど。むがし塩根川(しよねが)の奥(おぐ)さな、米吉(よねぎぢ)ていう野郎こあいでったど。秋んなて、ほの年ぁ栗ぁえっぺなた年でったど。んだはげぁぇ野郎こぁ、ががに 「米吉、米吉。裏山さ行(え)て栗拾ろてこえちゃ」 て言(ゆ)わっで、おわへながえっぺなるみでだ、大っきぶんどかはげごしょて、裏の山さ登て行(え)たど。 ほうしたら、栗ぬ木(ぎ)さなんだが、ばさっとした物(おの)ひっかがったずおん。ほんで野郎こぁ、ないだおんだべ、おがしおんだごど、ど思(も)てえっくん見たば、鷹の羽みでぁぇだなで作た、扇(うづわ)みでぁぇだけど。あんまり不思議だおんださげぁぇ、ほの栗ぬ木さ上がて取てみだら、やっぱり扇でぁぇんたはげぁぇ、ほれであおえでみだら、唯のうづわより、うんと風ぁ出っけど。ほうして栗ぁぼだぼだと落(おぢ)てくっけど。 野郎こぁ、ほれ天狗の扇だ、なて知らねべ、あおぐど栗ぁぼだぼだ落(おぢ)でくんな面白(おもへ)くて、野郎こぁ、あおえでぁ拾い、あおえでぁ拾い、ほの大っきはげごさ、えっぺ拾てきたけど。ほうして家(え)さくっどほのうづわ、つぁつぁにとらえっどもて、裏の木小屋さかぐしったど。 次の日、表の沢んどごで、米吉ぁ顔面(つら)洗てだば、歯一本(えっぽん)はんてね足駄へぁぇだ鼻のなんげ赤(あげ)え顔面(つら)しった天狗さま来たけど。ほうして、米吉ぁどご見つけで、 「こらっ野郎こ。んつぁ昨日(きんな)、裏山で天狗の扇拾たべ」 つけど。米吉ぁ知らねふりして、 「ほんたおの、おら知(す)らね」 て、嘘(ずほ)こえだど。ほうしたば天狗さまごへぁぇで、 「この野郎こぁ、嘘(ずほ)こえだな。あのうづわ持てこねごったら、やづ刺ぎんしてくえんぞ」 て、おっかね顔面(つら)していうけど。んだおんだはげぁぇ野郎こぁ、おかねぐなて、ぐえら走して木小屋さ行(え)ぐど、隠しった扇持てきたけど。天狗さまぁ米吉あどから、ほの扇、ぐえっとひなくて、 「この野郎こぁ、嘘こえでえぐね野郎こだ」 ていうど、ほの扇で、米吉ぁどご、ごえごえどあおえだど。ほうすっどごうごう風ぁ出て、米吉ぁ、こしぎ山の上(ゆえ)の方さ飛ばさっでしまたけどは。 ほうして、こしぎ山の上あだりまで飛ばさって行(え)たら、こんだ大っき鷲ぁとんできて、米吉ぁどご大っき爪で、ぐえっとつかで、大沢の奥の鍋倉山んどさ来たば、米吉ぁどご、どえら落してしまたけど。ほれぁまだ鷲の巣んどさ、すごでぁぇま大っき蛇ぁ上がてきて、鷲のひよこ取っどごだけど。んだはげぁぇ米吉ぁどさなのかもていらんねがったべ。ほんで米吉ぁどごぐえら落したあだべ。米吉ぁ、鍋倉の岩(がん)けつのてっぺんさ落さっだども、命ぁ助かたけど。 ほうして、米吉あ頭の上の木んどごでぁ、ばさらばさらて、鷲ど蛇ぁ、死ぬが生(いぎ)っかの大けんかだけど。 米吉ぁ、えまのこめぁぇん逃(ね)げねんねど思(も)て、あだり見だど。ほうしたば、少(すこ)す離っだどさ、なんだがぜぇぶん光るおの落ぢっだけずおん。米吉ぁなんだべどもて、ほれ拾てみだば光る石で、にぎりこぶすのほどあんなだけど。米吉ぁ、 「これぁ珍らす石だ。これだば拾て行(え)がねんね」 ていうなで、ほの石、懐(しどごろ)さ入っで、こんだ、ほのがんくら、つたなの小柴なのさだぐづえで、足なのあつこつたくて、ほの岩けづの岩山、ようやっと降りできて、ふうふうて言(ゆ)いながら沢の水飲(の)で、やっとまづまづど思(も)ていぎついだど。なんぼが恐(おか)ねがったべ。 ほうして、おわ家(え)あどっつだべど思(も)て、辺り見だたて、沢ん中だべ。あだりぁ山ばりだおんだおん、分るわげあねべ。しかだねんだし、沢下りしてえだら、どごが家(え)のあっどさ行(え)ぐんねべがどもて、沢下て行(え)たど。んだて鍋倉山の頂上がらだべ、とでも陽のあるうづなの、家のあるどごまでなの行(え)げねんだおん。ほのうづ途中で陽ぁ暮っでしまたけどは。 米吉ぁ、今朝からなんにも食(か)ねべ。腹だてすぎだべ。ほれさ暗くなてきたべ。米吉ぁ泣ぎでぁぇぐなて来たけどは。んでも、もう少(すこ)す行(え)たら、家ぁあるんでねべがど思(も)て、びっこひぐみでぁぇんして行たど。ほうしたば、先さぽつんと、灯りあしとっつめっけど。米吉ぁよろごで、ほの家さ行(え)て、 「おばんです。おばんです」 て言(ゆ)たば、婆さま出はてきて、 「今(えま)ごろ、なんだや」つけど。ほんで米吉ぁ、 「道迷(みづまよ)てしまて、暗ぐならっだはげぁぇ、泊めでもらわんねべが」 て言(ゆ)たば、婆さまぁ、 「道迷たなが。んだらなんぼがくたびっだべぁ、腹もへったべぁ、まずまずへれ」 つけど。米吉ぁ、ほうすんべづん言(ゆ)わっで、どっかどして、ほごの家さ入(へ)ぁぇて、ままも御馳走(ごっつお)なて、腹もくっつぐなて、寝へでもらたど。 ほうして寝っだば、夜中んなんだが、座敷の方でばりばりて、すこでぁぇま火でもたぐよんた音ぁすっずおん。米吉ぁ、火事でもなたぁだがどもて、はっと目さめたけど。ほんで、そっと座敷の方見たば、髪やしゃやしゃどした鬼婆んば、ゆるりさ大っき鍋かげで、すこでま火たぎながら、傍さ俎板おえで、びがびが光る包丁(ほいじょ)の刃さ指あでがて、 「これだば、あの野郎こぁ首なの、えっぺんで切れる。よしよし腹も裂えでが。なんぼが、んめぁぇべな」 て、一人(しとり)ごど言(ゆ)ったあだけどや。米吉ぁおかねぁぇぐなて、おかねぁぇぐなて、がだがだどふるえできたど。 ほんで、今(えま)逃(ね)げねば、鬼婆んばに食(か)っでしまうはど思(も)て、はどめぁぇの戸がらり開げで、沢の下の方さどんどんど命がげんなて逃げだずおん。ほうすっど、鬼婆んば、はどめぁぇの開(あ)ぐ音聞(き)で、 「野郎こ逃げだな。逃げだて駄目だ。こら待でぇ」 て、追(ぼ)かげできたけどやぁ。米吉ぁおかねべ、一心なて走して逃げだども、鬼婆んばはえおんで、ほの内(うづ)ん、かつがれそんなてしまたけどは。ほうすっど米吉ぁ、道ばだの石ころ四つ五つ拾うど、鬼婆んどさ、 「この畜生。この畜生」 て言(ゆ)いながら、ばえんばえんどぶからでやたど。ほうしたば鬼婆んば、 「いで、いで。ああいでちゃは」 ていうど、ほごさしゃがまてしまたけどは。米吉ぁ、このこめぁぇんだ、ていうど、まだどんどど走したど。んだて鬼婆んばだおんだおん、あれぁぇおんで、まだ、 「この野郎こ、待でぇ」 て、追(ぼ)かげできて、またかつがれそんなて来たけどは。ほんで米吉ぁ、おかねくておかねくて、まだ石ころぶからむかんじょして、道傍見だども、石ころぁさっぱりねけど。米吉ぁ、 「ああ、困たちゃ困たちゃ、鬼婆んばに食(か)っでしまうは」 ど思(も)ていだら、懐(しとごろ)さ入(へ)ぁぇた光る石こぁ、懐ん中で、 「おれぁどご見(め)へろ、おれぁどご見へろ」 て、叫(さが)ぶけど。んでも、米吉ぁ、石ころ入(へ)だてなんずんなる(どうなる)おんだが。どもていたら、石ころぁまだ、 「早ぐ、おれぁどご見(め)へろ。早ぐ早ぐ」 ていうおんだはげぁぇ、米吉ぁ、懐(しとごろ)さ手入 (へ)で、石こつかむど、「ほらっ」て、鬼婆んば方さ、つだしたど。ほうしたば鬼婆んば、「あっ」て叫ぶど、ほごさしゃがまてしまて、動(え)ごがねぐなてしまたけどは。米吉ぁ、こん時(づき)だていうど、まだ一生(いっしょ)けんめんなて走したど。ほうしたば、鬼婆んば追(ぼ)てこねけどは。米吉ぁ、 「ああ、おれぁこの石こん助けらっだ。大事しんねんね」 て、ほの石こおがんだけど。 ほうして、すばらぐいたら、村見(め)できたけど。ほんで米吉ぁ、ようやぐどっかどして、えたば、田の野手(ので)くさ刈ってだ人(しと)あいだけど。ほんで、ほの人(しと)さ、 「及位(のぞき)の方さ行(え)ぐな、どっつですべ」 て聞だら、村の人ぁ、 「この道、まっすぐ行(え)げばえなだ。ほして真室川がさ出はたら、まだ聞げ。ほんでもおめぁぇどから来たおんだや。まづ泥だらけんなて」 ていうけど。ほんで米吉ぁ、 「及位のしょねがの奥がら、天狗さまに吹っとばさっで、この奥の山がらようやぐ来たあだ」 て言(ゆ)たば、ほの人(しと)ぁどでして、 「ねぇだどや。天狗え吹っとばさっだて、えぐ助かたおんだ。このずっと奥だば鍋倉だべぁ、あそごらあだりにゃ、鬼婆んばいっさげぁぇ食(か)れるていうなで、村の人(した)づぁ誰も寄っつがねぁだ。まずえぐ鬼婆んばに食(か)んねがったごど」 つけど。ほんで米吉ぁ、 「んだ、ゆべな、鬼婆んばに食れっどごでぁぇったなよ。逃げだば追(ぼ)てきたはげぁぇ、石ころぶからで、ようやぐ逃(ね)げで、今(えま)こごまで来たなよ」 て言(ゆ)たば、 「ほんでぁえがった。今(えま)ごろ来たぁだば、まだ朝飯(まま)も食ねべぁ、おれぁ家(え)さ行(え)ご」 て、ほの人(しと)へ連(つ)で行(え)てもらって、朝飯ごっつぉなて、しょねがいりだば晩方はんてつがねべぁ、どて、にぎりまままで持(たが)がへでもらて、助けでもらたど。 ほうして、ようやっと暗ぐなてがら、おわ家(え)さつだけど。ほしたば、家の人達(したづ)ぁびっくりして、 「まずまず、どごさ行(え)て来たおんだや。村の人達(したづ)ぁ、おめぁいなぐなんべし、ほれさ化げおのぁ出はて、姉こ一人(しとり)あしたの晩、入(い)りの大杉んどさ連(つ)で来(こ)え、ていうべし、んつもほの化げおのにさらわっだなんねが、て大さわぎしったどごだ。まずまず、んつ(お前さん)ばりもさらわんねくてえがった」 て、きがへだけど。 ほうして、村の人達ぁ、どごの家(え)の姉こ出したらえべて、みんな集(あづ)ばて大さわぎして相談したども、誰だておわの家の娘出すな嫌(や)だべ。んだおんださげぁぇ、なんぼしたて決まらねけど。ほんでとうどうくづぴぎしたずおん。ほしたば、村のはずれの与兵衛家(え)のきぬていう姉こぁどさ当たけど。ほんで与兵衛家でぁ困て困て、ただ家内中で、泣(なえ)で夜明したけどは。 ほうしてな、ほの晩暗ぐなてがら、村の人達(しだち)ぁ、まなぐ泣ぎはらしったきぬどご送て、入(い)りの大杉んどごまで行(え)たど。米吉もみんなの後さついで行(え)たど。ほして大杉んどさ行(え)たば、化げおのぁ、ほれごそ目(まなぐ)光らへで、ううんてうなりながら、 「姉こ連(つ)で来たが、連(つ)できたら早ぐ出(だ)へ」 て、われがねみでぁぇだ声出して叫(さが)ぶけど。ほうしたば、ほの声ぁ、米吉ぁ懐(しどごろ)さへっだ石こさひびて、びびてなっけど。米吉ぁ、あっと思(も)て、懐(しどごろ)の石こさ手やたど。ほしたば、ほの石こぁ、 「米吉、米吉、おれどごあの化げおのさぶからめ、ほうすっど化げおのぁ、必ず死ぬはげぁぇ」 つけど。ほんで米吉ぁおかねおんだはげぁぇ、ふるえながらも、ほの石こ懐がら出すど、思い切り化げおのさ、ぶからでやたど。ほうすっど、んまぐ当て、化げおのぁ、「ぎゃぁっ」ていうど、ぶったおっで死でしまたけどは。ほんで、ほれ見で村の人達(したづ)ぁ、たまげでたまげで、みんな目(まなぐ)丸こぐしったけど。とんぴん からんこぁ ねっけどは。 |
(集成二四〇「三枚の護符」系) |
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