3 よごばり和尚

 むがしあったけど。
 あるどさお寺(でら)あってな、ほのお寺さ和尚さんど小僧(こんぞ)こぁだ三人いでぁぇったど。ほの和尚さんずぁまずまずよごばりでよごばりで、んめぁぇ物(おの)もらたて、おわばり食て、小僧こぁだどさなの、さっぱり食(か)へねで、隠しておわばり食てんなだけど。
 ある時(づぎ)、んめそだ梨一(しとっ)つもらたけど。ほんでほの梨、小僧こぁだどさ、めへずらがして(見せびらかして)食うべどもていたど。んでもただ食たて面白(おもへ)ぐねはげぁぇ、どうへ小僧こぁだなの、ろぐだ(ろくでもない)歌つぐんねべはげぁぇ、歌上手ん作たおのさ、この梨呉(く)えるて言(ゆ)てみっがな、て思たぁだけど。ほうして小僧こぁだどこ集(あづ)べで、
「ええが、こごに梨一(しど)つあんども、一つはんてねはげぁぇ、三人さは呉(く)えらんね。んだはげぁぇ歌一番上手ん作たおのさ呉える」
 て言(ゆ)たど。ほうして、
「んだども、ただ作たて面白(おもへ)ぐね。ええが、〈切りだぐもあり、切りだぐもなし〉ていう言葉入(へ)っで作ぐれ。ええが」つけど。
 ほんで小僧こぁだ、ほの梨食いでぁぇんだし、うんと工面(くめん)してたけど。ほの内(うぢ)ん、しりの小僧こぁ、
「和尚さん、おれぁ出げぁした」
 ていうけど。ほんで和尚さん、
「でげだが、んでぁ、言(ゆ)てみろ」
 ていうおんだはげぁぇ、小僧こぁ、

  十五夜の月がかくれるあの枝を
    切りだぐもあり 切りだぐもなし

 て言(ゆ)たば、「うう。ながながえぐ出げだ。んでもまだ二人(したり)いだはげぁぇ待ぢでろ」つけずおん。ほの内ん、こんだもう一人(しとり)の小僧こぁ、
「和尚さん。おれも出げぁした」
 ていうけど。ほんで和尚さん、
「ほう。出げだが、んでぁ言(ゆ)うてみろ」つけど。ほんで二番目の小僧こぁ、

  硯ばご中に余れる筆のさや
     切りだぐもあり 切りだぐもなし

「こういうなです」
 て、いうけど。ほんで、
「うう、わるぐね、わるぐねぁぇども、えま一人(しとり)出げねはげぁぇ待で」
 ていうけど。ほしたばこんだ三番目の小僧こぁ、
「おれも出げぁした。和尚さん」
 ていうけど。
「ほう、出げだが、んでぁ言(ゆ)てみろ」
 つけど。ほんでほの小僧こぁ、和尚さんのつら見て、にやにや笑いながら、
「こういうな、どうすや和尚さん。ええが、

  梨一(しと)づおしむ坊主のあの首を
     切りだぐもあり 切りだぐもなし」

 て言(ゆ)たど。ほしたば和尚さん、まっか顔面(つら)して、
「この小僧ぁ、ろぐだごど言わねっ」 ていうど、いぎなりほの梨、ほの小僧こぁどさぶからでやたけど。ほうすっどほの小僧こぁ、ほれ拾うど、
「ありがだし、和尚さん」
 ていうど、ほの梨、がりがりど食てしまたけどは。とんぴん からんこぁ ねっけどは。
(集成五二九「旅僧と子供」)
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