1 修験者と大蛇

 むがしあったけど。及位(のぞき)に、こしぎて、高(た)げぁぇ山あんべ。あの山まだ「雄(お)ごしぎ」と「雌(め)ごしぎ」ど、二(し)たつあんなよな。
 ずっと昔な、あのこしぎの、雄ごしぎの方さ、まだ男の大蛇、雌ごしぎの方さまだ女(おなご)の大蛇いでぁぇったど。
 ほうして、ほの大蛇ずぁ大っきおんで大っきおんで、男の大蛇まだ、雄ごしぎ七巻ぎ半もめぁぇでんなだけど。ほうして、女の大蛇まだ、雌ごしぎ六(むう)巻ぎもめぁぇでっけど。
 ほうして、天気のええ日あ、こしぎの後にある、大っき沼さへていんなだけど。ほうしてほの沼まだ今(えま)こしぎのすぐ裏の下に、名勝沼てあんべ、ほれがらずっと行(え)ぐど、まなごの大池てあんべ、ほのしたっつの沼まだ、ほんづぎぁ、まだ続(つづ)でて、ほれごそ大っき沼でぁぇったど。ほんげぁぇ大っき沼だおの、大蛇二匹なの楽ん入(へ)ぁぇるえがったべちゃなぁ。
 ほうして、空曇て来たり、雨なの降っど、出はてきて、及位の村みでんなだけど。ほうして、及位のあっちこっちの部落がら、毎年米五百俵もとり上げで、三年に一度は、一人(しとり) ずづ娘さらって行 (え)ぐなだけど。んだはげぁぇ、及位の人(し)たぢぁみんな困ていだあだけど。
 ほうして、困ていだどさ、どからが、額(ひてえ)さ頭巾(ときん)ずおのつけで、ぼろぼろの汚 (よご)っだ衣着た修験者きたけど。ほの修験者まだ及位の方さ崖んなてる、高(たげ)ぁぇ山で、修行するよだ山ねぁぇべがどもて、山さがしん来たけなだけど。つらなの陽にやげで真黒だべし、髪などまで陽にやげで赤茶けでるし、髭なのぼうぼうだおんださげぁぇ、年なのなんぼくれぁぇだか分らねけど。
 ほの修験者まだ及位の人(し)たぢぁ、ほの大蛇で困てるていう話聞(き)で、なんとがほの大蛇退治して、及位の人(し)たぢぁどご助けねんねど思たぁだど。ほうして、困てる人(しと)どご助けでやれば、おわ(自分)えままで修行してきた法力もためされっし、おれぁ修行して来たなも、みな困てる、人(しと)どご助けるためなんだし、これがおれのほんとの務めだど思たど。
 ほうして、部落の人たぢに手伝てもらて、祭壇つくてもらて、いよいよそさ登(のぼ)て、御祈祷すんべど思(も)たら、急に空まっくらんなて来て、雨あざぁざぁど降るんだが、大風まで吹えできて、祭壇は飛ばされ、ほれさ、しょねがの川大水んなて、祭壇なの、どさが流さっでしまたけどは。これぁ、こしぎの大蛇だぁ、修験者の法力で退治されっどもてしたごどでぁぇったどや。
 ほんで、修験者まだこれだばとでも駄目だどもて、こんだぁ、部落のしたぢに、土用のうしの日ん、よもぎ、しこでま(たくさん)刈てもらて、ほれ干して、祭壇こしぇるあだりさ、祭壇かごで、ずらっと積でもらたど。ほうして、ほれさ、火付けでえぶしたど。ほうしたば、ほの煙(けぶ)ぁ、こしぎの方さ流っで行(え)ぐけど。ほうすっど大蛇だぁ、ほの煙(けぶ)でえぶさっで、こしきにいらんねぐなて、下の沼さ、くぐてしまたけどは。
 ほうすっど、修験者、「今(えま)だ」て言うど、祭壇つくて、ほれさ上がて御祈祷始めだずおん。村の人(し)たぢも一緒(えっしょ)んなて、一所懸命(えっしょけんめ)おがだど。ほしたば、大蛇、なんぼしたて沼がら上がらんなぐなてしまたけどは。んだおんだはげぁぇ、大蛇だくやしがて、沼がらせぇも出られっごったら、まだ、大雨風降らへで、あんた祭壇も、修験者ど一緒(えっしょ)ん、吹っとばしづげて呉(く)えんなだどもて、沼んながで、二匹ぁ大あばれしったけど。んだて、沼でなの、なんぼあばっでみだて、沼の水ぁ吹っ飛ぶぐれぁぇのおんで、なんずもかんずもでげねがったど。
 修験者まだ、祭壇で神さまだちさ、一心なて「大蛇退治して、村の人(し)たぢどご助けで呉(こ)ろ、ほうすれば、おれなの、なんずんなてもええはげぁぇ、どうか大蛇退治して、村の人(し)たぢどご助けで呉(こ)ろ」ていたのだど。ほんで、神さまたぢぁ、ほの位(くれ)ぁぇ一心なて人助ける気持だば、助けでやれて言うごどんなて、んでぁ、山の神さま、おめぁぇ行(え)て来(こ)え、て、山の神さまどこ寄越したけど。
 山の神さま、おなごの神さまだども、白え着物(おの)きて、とでも威厳あて、神々しい神さまだずおん。ほの神さま、沼の側さきて、大蛇ださ、
「お前だちは、長年及位の百姓だどご苦しめで来たようだが、どごが遠ぐさ移るごったら、今 (えま)までの罪は許してやるが、どうだ。」
 て聞いだど。ほしたば、二匹ぁ相談しったけど。ほうして、
「おらだ、ほがさ移るたて、これくれぁぇ大っき沼んねば駄目だし、ほげた大っき沼だば、みな他の大蛇だ主んなてるはげぁぇ、行(え)くどこぁねは。」
 て言うけど。ほんで、山の神さま、
「ほんでぁ仕方ね、元の竜宮さ返(け)ぁぇれ。」
 て言(ゆ)たど。ほしたば、大蛇だぁ、
「あんた固苦し、きゅうぐつだどさなの嫌(や)だ。」
 つけど。ほうすっど、山の神さま、ごしぇで(怒って)、
「おれの言うごど聞がんねなが。んでぁ、え。」
 て言うど、辺(あだ)りの山、がらがら崩して、大蛇だどご、沼がらみ、埋(ん)めでしまたけどは。ほうして、大蛇だ、退治さっでしまたけど。
 んだはげぁぇ、ほの大っき沼埋めらっでしまて、しりど頭(かしら)さ少し残(のご)たばんだけど。ほんで、頭さ名勝沼、尻さ大池ぁ出げだあだけど。
 ほんで修験者、御祈祷したあでぁぇあったて、喜び、村の人(し)たぢぁ、御祈祷してもらたおかげだて、お祀りして、修験者さお礼もし、まだ、改めで神さまだぢさもお礼参りしたけど。
 ほしてな、ほの修験者まだ偉(え)れぁぇおんで、おれの修行あこれがらだて言うなで、こしぎさ登って、おわ足(自分の足)木さゆっづげで、こしぎの崖がら逆さがさんなて、ぶらさがて修行したぁだど。
 こげぁぇん崖がら逆さづりんなて修行すんなば、「のぞきの行」ていうおんだど。
 ほうして、ほの修験者、まだ一心なて難行苦行して、立派な悟り開(ひ)れあぇだなだど。ほうして、京さのぼて偉い位もらうような坊さんになたけど。
 とんぴん からんこぁ ねっけどは。
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