30 笠地蔵

 むかしとんとあったけどやろー。
 むかしなぁ、じんつぁとばんちゃ、貧乏暮しな人で、貧乏で子どものいねぇ人
だったど、ほれ。ほうして山さ行って柴を伐り、ばんちゃは麻だの何だて、草を
とってきて、股引織ったんだど。ほして町さ行って売って暮しったんだど。
 そのうち、雨傘ていうの作ったんだど。ほのじんつぁ。ほしてほの雨傘を町さ
行って、なんぼおふれ廻したて、ほの雨傘買う人いながったていうんだな。んだ
から、お正月の餅の買いようながったど。
 ほして、仕方なしに傘背負って戻ってきたら、六地蔵さま立っていだんだど。
ほして雨に叩かれ濡れつぶれ濡れていたど。ほんで可哀そうだて、六楷しかもっ
てね傘だったから、六地蔵さまさかぶせて来たど。したらば夜の夜中、
「伝三郎、戸開けろ、開けねぇごんだら、ふんぶかすぞ。伝三郎、戸開けろ、開
けねぇごんだら、ふんぶかすぞ」
 いや、こんどは夜の夜中に戸開けろ、戸開けろ、戸開けねぇど、ふんぶかすぞ
ていうので、んだはげ恐っかなくて、突っ張り棒かってだの、はずして戸開けだ
んだど。ほして逃げてきたど。ドシン、ドシンという音したんだど。じんつぁと
ばんちゃ恐っかなくてはぁ、隅こさひっついて寝っだんだていうなだ。
 ほうして、次の朝起きてみたら、米だの餅だの、何だって、酒だていうやつ、
すっかり置いであったんだど。ほしたれば、ほいつぁ、何までもない、地蔵さま
さ笠かぶせたお礼として呉だもんだど。
(砂子関・工藤かなえ)
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