29 笠地蔵あるどころに貧乏なおじいさんとおばぁさんあったけど。お正月が来るのに、餅も搗けない。 「何か売るものがないがなぁ」 て、おじいさんが言うたど。おばぁさんは、 「売るものなら、柴ぐらいなものだが」 ていうたら、おじいさんは、 「柴でも町に行って走って来っかなぁ」 ていうたど。町さ行ってみっど、買物する人ばっかりだげんど、柴買ってくれ る人ぁいながったど。おじいさんは売れね柴をかついで雪降りの道を帰ったど。 そしたら木の下に笠売りがしょんぼり腰かけていたど。近寄ってみだら、 「笠一つも売んねなでなぁ」 て、笠売りは言うたど。 「持ってきた笠、このまんま持って帰らんなねはぁ、そいつもつらいしなぁ、お 前の柴と取換ねぇかなぁ」 と言うたど。おじいさんは、「ほんじゃええ」て、柴と笠をとりかえて、手拭で ほほかぶりして、五つの笠かついで、とぼとぼと野原まで帰ったど。すっど六地 蔵さんが雪にぬれていだっけど。おじいさんは、 「そうだ、笠と取換えてきて、ええがった。この笠かぶせてくれんべなぁ」 て思ってかぶせてみたら一つのお地蔵さまに笠が足んねがったど。自分のか ぶってた手拭かぶせて、「勘弁な」て言うて帰ってきたど。日が暮れるころ、おじ いさんは家に帰ったんだど。おばぁさんは、 「ああ、ごくろうさま、柴売れてええがったなぁ」 ていうど、おじいさんは、 「柴と笠を取りかえて、地蔵さまにかぶせてきた」 て話したど。 「そいつぁ、ええことしてくれたなぁ、おじいさん」 て、喜んでいだんだど。二人は囲炉裏で温まって寝たんだど。ほしたら夜中に 目がさめたど。ほしたら外をヤンサヤンサという音がするんだど。家の前まで来っ ど、 「昨日(きんな)のお礼だ」 ドサーッという音がするんだど。二人が戸開けてみたら、餅や金などいっぱい つまってる俵が六つおいてあったけど。二人は「これは、これは」ておどろいて 表の方見たら、手拭と笠かぶったお地蔵さまがノコノコと帰るうしろ姿が見え だっけど。 |
(月山沢・遠藤つるよ) |
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