17 猿聟

 むかしあったけずもなぁ。
 おどっつぁ、三人の娘もて、ほして山さ田持ってだんだど。ほして、田んぼ作っ
ていだけげんど、日でりだけか何だけか、田さ水かかんねくて困って、毎日行ん
けんども、田さ水かけらんねくて、かまわずそっち掛けっど、こっち掛かんね、
こっちさ掛けっどそっちさ掛んねではぁ、困っていで、んでも次の日行ってみて、
そこの石さ腰かけて休んで、煙草喫みしったれば、猿ぁ出はってきたてだな。ガ
サガサ、ガサガサ。ほして猿ぁ、
「なえだて、何心配なことあんなだ」
 て、山のおんつぁだど。 「水ぁ来なくて、今年は田はわかんねべなはぁやぁ」
「なして」
「んだて、水かけらんねどれぁ、なぜかして水掛けらんねが、おんつぁ」
 ていうたれば、
「何(なえ)でも、おんつぁ、ええやつ呉っさげはぁ、言うこと何でも聞ぐはげ」
「んだがや、んだら、おれ言うこと何でも聞っこんだら、おれ、一生懸命して水
かけて呉るっだな」
 て、行ったていうなだな。ほして、猿は水かけて呉だなだど。ほうしたらば、
水はかかって、きれいな田になって、ほれ、米穫れるようになったって。
 ほしたら、田んぼさ行ったら、またおんつぁと行き会ったって。
「おれちゃ、何でも呉るなて言うたな。ほんじゃ、おれちゃ、三人娘いた、その
娘一人呉ろ」
 てだど。約束したはげ、そのおどっつぁ、仕方なくて、「ええ」て言うたていう
なだな。こんどは猿ちゃ、娘呉るなて言うてしまた。誰、猿のおかたになんな居
ねべかて寝ていんなだどはぁ。
 娘だ心配して、
「なして、おどっつぁ、起きて御飯(おまま)食ったらええべなやぁ。なして食べね」
「なんでもないげんど、んだらお前だ、おれの言うこと聞いて呉っかやぁ」
「んだら、起きて御飯食うがやぁ」
「猿のおかたになって呉っかやぁ」
「猿のおかたになの、なんねべやぁ」
「困った」
 なていたら、二番目、こんど来たんだど。
「猿のおかたになど、誰なっどこだ」
 て言うたていうなだ。ほうすっど困ってなぁ。一番小(ち)っちゃい娘来たけはげ、
「お前、猿のおかたに行って呉らんねが」
「んだら、行くさえすっどええのが、おどっつぁ」
「んだ、行ってな、行ってさえ呉っどええなだ」
「んだか、おれ行ぐ」
 ほして、猿のおかたに呉(け)っだていうなだな。
 ほしたれば、猿も喜んで一生懸命稼いだげんども、春さなったれば、桃の節句
の頃になったんだどはぁ。んだはげ、節句礼行かんなねわけだ。嫁の家さ。そし
て餅搗きしたんだど。ほしたれば、
「餅搗いだげんど、何が入っで行かねど…」
「おらえのおどっつぁ、ほだな、重箱さ入っだら、重箱くさいて嫌(や)んだなぁて、
いう」
 てだど。
「んだら何さ入っでやぁ、丸べてか」
「ほだごとすっど、丸べたななの、固くて嫌(や)んだくなっさげ、ほだな餅食(く)だくな
いもなぁ、好(す)かねていうもなぁ」
「ほんだら、なぜしたら」
「おらえのおどっつぁ、臼で搗いたんださげて、臼から一つずつ切った餅ばっか
り好きなよ」
 て、娘いうなだど。
「んだか、んでは、臼がらみ背負って行くべ」
 て、猿は臼ば背負ったていうなだな。
「おどっつぁ、ほんでは喜ぶべな」
 て。猿ぁ、臼がらみ背負って、節句礼に来たていうなだな。ほうしたらば、途
中さ来たらば、桃の花咲いっだんだど。
「桃の花咲いっだがやぁ。あの花持って行ったれば、なんぼかおどっつぁ喜ぶべ
ちゃ」
 ていうたんだって、娘が。
「んだか、んだら、おれ取ってくっか。臼ちょっと降ろしてが」
「ほだなどこさ置くど、土くさくて、匂いして食だくなくなるて、おどっつぁん
いう」
「んだら、背負ってが」
 て、背負って登ったど。
「この枝か」
「いま少し、ほりゃ上んなよ」
「こいつか」
「んね。はいつ、もう少し上んな」
「ほだら、こいつか」
「ほんねの、ほりゃほりゃ、ちぇっと上んなよ」
「こいつか」
 ていうど、
「いま少し、こっちの手のどこんなよ」
「こいつ、こいつ」
「んだ、んだ。ほいつよ」
 ほして、手伸ばして取んべと思ったら、バリバリと折(お)だっではぁ、臼がらみダ
ボンと川さ入って、猿ぁ流っで行ったんだど。んださげて、一番小(ち)っちゃな娘、
親孝行して、田ば耕したんだけど。
(砂子関・悪七)
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