14 三枚のお札

 むかし、ずうっと奥山さ行ったところが、道に迷って、ほしたれば暗くなった
んだど。こんど、どっちゃもこっちゃも行かんねくなったんだど。ほして見たれ
ば、向うにかすかに灯りが見えたていうんだ。んだはげ、ほこさ行って、
「こんばんは、こんばんは」
 て行ったれば、ばんちゃ一人ばりいだんだけど。火焚いて当っていだんだけど。
「こういうわけで、来たんだげんども、まず、道に迷ってきたはげて、一晩泊め
てけねが」
 て言うたんだど。
「んだら、泊まれ」
 と、こうなって上げだんだげど。ほしてるうちに夜中になったれば、ちょぇっ
と変だ。ちぇっと起きてみたれば、かげでものすごい口になっていだんだけど。
「これは困ったもんだ」
 て思って、その野郎こが一生懸命で、なぜして逃げたらええがんべと思ってみ
だげんど、逃げっどこ無いなだていうなだ。
 ほしたら、便所の中からくぐって逃げた。んだれば追っかけらんなねて、一生
けんめい、
「小僧、待てろ。小僧、待てろ」
 て、声かけて追っかけだんだど。
 さぁ、こんどそのばんちゃ早いもんで、小僧遅いもんで、いよいよ遅くなって
追っかけられてしまいそうになった。ほうしたらばいつでも肌身につけっだお守
りさま、三枚持ったていうなだな。その小僧さんがうしろさ、
「砂山になれ」
 て、投げだんだど。ところが砂山が山ほどになって、登っどツルリ、登っどツ
ルリして、やっと登ったんだど。
 そのうち、小僧は一生懸命走って、向こうさ逃げて行く。また追っかけらっで、
いよいよ追っかけられっどこだ。そしたらうしろさ、
「大川なれ」
 て、投げっど、ものすごい川になって、そしてまた行っけんど、追っかけられ
て、またうしろさ、
「大火事になれ」
 て、投げだんだど。ほうしたれば火の海になったんだど。
 ほうしているうちに、また鬼は追っかけてくる。
「小僧待っでろ、小僧待っでろ」
 ていわっだんだど。ほんどき五月の節句だったていうんだ。そして菖蒲とヨモ
ギの間さ、チョロンと野郎コが入ったていうんだ。そして野郎コの匂いしなくて、
菖蒲とヨモギの匂いだけだから、五月節句には菖蒲とヨモギさすんだど。とーび
んさいすけ、さいざぶろう、さいざの尻さ火がはねた。おいまな屁でぷっと消し
た。
(砂子関・工藤かなえ)
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