9 猿と雀

 裏の竹林さなぁ、卵産したけど。ほして雀ぁ卵三つぶ四つぶも産したけべな、
ほれ。ほうして大事にして、チョロン、チョロンて大事にして男雀ぁ、食せて大
事にして温めていんなだけど。
 ほだずど、裏から猿ちくしょう、ガサガサ降(お)っできたど。
「その卵、雀どの、雀どの、卵一つくれさい」
 ていうけど。
「三つぶばりの卵、呉らんねぇ」
「呉ねがら、南蛮味噌つけて飲んでしまうぞ」
 ていうけど。
「んだら、呉っこでやぁ」
 て。呉んなだど。ほして雀、がおってはぁ(がっかりして)、
「三つぶばりの卵とらっじゃ、チョロン、チョロン」
 て、鳴いでいっけどはぁ。ほうして猿ちくしょうは来んなだど。ガサガサ、ガ
サガサ。
「雀どの、雀どの、卵一つ」
「ほだえ、ほだえ呉らんね。二つぶばりな呉らんね」
「呉ねがら南蛮味噌つけて飲んでしまうぞ」
 て、また言うなだど。ほして南蛮味噌つけて飲まれっど恐っかないもの、呉(け)だ
べ。ほしてまた呉だんだど。二つぶばりな取らっで、一つぶしか無くてはぁ、雀
はチョロン、チョロンて鳴いでいっけどはぁ。
 ほうしていだば、また来たていうなだ。
「一つぶばりな呉らんね」
「あそこ、堰はねっどて、落としたはげ、また呉ろ」
 て来たんだど。ほうしてまたとうとう取らっじゃんだど。雀は取らっで、チョ
ロン、チョロンて鳴いっだんだどはぁ。ほしたれば、猿ちくしょうはガサガサ、
ガサというて行っていだれば、丁度、臼ぁきて、
「雀どの、なして泣きやる」
「猿ぇ卵とらっだ、チョロンチョロン」
「おれ、仇取って呉(け)っさげ、泣きやんな」
 て言うたんだど。そして臼ぁゴロゴロ行ったんだど。ほうしたばブーンと蜂ぁ
とんできたんだど。ほして、
「雀どの、雀どの、なして泣きやる」
 ていうたど。
「猿ぇ卵とらっじゃ」
「おれ、仇取って呉っさげ泣きやんな。」
 ほしてとんで行ったんだど。ほうしたればこんどぁ、チュクチュク、チュクチュ
クて音すっさげ、なえだと思ったらば、着物ぬう針だけど。ほしたれば針も言う
なだど。
「雀どの、雀どの、なして泣きやる」
「猿ぇ卵とらっじゃ」
「おれ、仇取って呉っさげ泣きやんな」
 ほして、針も行ったんだどはぁ。ほしてチョロン、チョロンて…。
 こんどぁなぁ、蟹来たってなだ。蟹はヨッコ、ヨッコと来て、また、
「なして泣きやる」
「猿に卵取らっじゃ」
 ていうたらば、
「おれ、仇とってやる」
 そして蟹も行ったんだどはぁ。チョロン、チョロンて鳴いっだれば、こんどは
よ、ビダラビダラ、ビダラて音すんなだけど。ビダクソ来たなだと。
「雀どの、雀どの、なして泣きやる」
 ていうたけど。
「猿に卵とらっじゃ」
「んだら、おれ仇とって呉(け)っさげ、泣きやんな」
 雀どの喜んで、チョロン、チョロンていたら、ビダクソ行ったんだけどはぁ。
ほうしたれば、みんなで相談したなだけど。ほして相談していたら、トチプもコ
ロコロ、コロコロて来たんだど。ほして来て、相談して、
「なぜして仇とったらええがんべ」
 ていうたらば、臼は屋根の上だど。ビダクソは戸の口の、猿ぁ歩くようなどこ
さ。蜂はサマもとさ居て、針は布団さささって、蟹は水舟にいて、トチプは囲炉
裏の中さ入った。猿ちくしょうぁ来て、どんどん、どんどん火焚いて当っていた
んだど。当たっていたれば、トチプはバーンとはねだんだど。ほしたれば、
「あち、あち…あつくてあつくて、わかんね。わかんね」
 て、布団の中さもぐって寝っだんだどはぁ。ほうしたれば針はチュクチュク、
チュクて、「ああ、いたい、いたい」
 サマもとさ行ってみんべと思って見だれば、こんどは蜂はブーンと飛んできて、
ジュグジュグ、ジュグジュグ。
「ああ、いたい、いたい、いたい。水ででも洗って」
 て、水舟さ行ったれば、こんどは蟹が食っついだんだど。そして離さねなだど。
「ああ、こだえしていらんね、こだえしていらんね、どこさか行ってみらんなね」
 どて、逃げて行ったれば、戸の口さ行って逃げて行かんなねと思ったらば、つ
るっとすべって転んだんだど。ほこさ上から臼落っできて、猿ば退治して呉(け)だん
だど。ほして猿は卵とった罰ぁ退治さっじゃんだどはぁ。とーびんさんすけ。ん
だはげて、ええぐないことさんねず、ほやんばえ(そういうように)仇とられっ
さげな。
(砂子関・悪七)
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