1 泳ぎの名人

 むかし、あるところに、すばらしい泳ぎの名人がいた。して、水連にかけては抜群で、抜手を切ったら、まず日本一て()っだえらい人がいだったど。
 その人さ、むかし、侍なり町人なり、百姓から、皆ほの奥儀ていうな、なかなか明かさねがった。んで、
「今年もう三年もなるんだ。先生、何とか絶対おぼれないていう奥儀を教えていただきたい」
 て、こういう風に言うた。ほしたら、
「んだら、明日こい」
 て言うた。次の日行ったらば、あんまり遅いくて駄目だて言うた。
 こんどは、「ほんでは……」ていうわけで、早く行ったれば、こんどは、
「早いすぎて駄目だ」
 て、なかなか教えない。
「んだら、何時ごろええがんべ」
 ていうわけで、ちょうど早くも遅くもないように、夜中の十二時ごろ行った。したら、
「お前はよく十二時ごろ来て()だから、んだらば、今日は絶対に溺れないていう奥儀を教えてやる。世の中には、この〈ぜったい〉てつけば非常にむずかしいもんだ」
 ほして、
「筆と墨もってこい」
 ていうて、筆と墨もって()らせて、そしてクロコブシんどこさ、線をひいた。そして、
「ここより深いどこに行かなければ、ぜったいに溺れない」
 ていうたど。どんぴんからりん、すっからりん。
>>ねずみの角力とり 目次へ