29 十分五分兄弟

 むかし、十分と五分という兄弟いだったと。父親に早く別れて、父親の家業の小鳥とりしったんだと。
 ある日、十分と五分で、鳥の通るところさ網かけったと。ところが十分は用を思い出して、
「五分、五分、オレぁ用達(た)してくるから、網を番してろ。網に掛ったものは親でも子でも逃がさず獲っておけよ」
 と言置いて用達しに行ったと。ところが何時まで経っても何も掛んねがったと。そのうち昼間になって、母親は十分と五分さ弁当持って来た。ところが年寄って目が見えねもんだから、網さ掛ったと。そうすっど、五分は物陰から出てきて、
「さあ、掛った」
 というわけで、「何する五分」と言うのも聞かねで、五分はこんがえ大きな棒(ぼく)刀(とう)で叩いたと。
「オレは兄(あん)にゃに、親でも子でも逃がさずとっておけと言わっだから、とんなね」
 と、母親を殺してしまったんだと。兄の十分が来てみっど、蓆かぶっているのがある。
「何か掛ったか、五分」
「いや掛った。おら家の母(がが)掛ったっけな。嫌(やん)だ嫌だと言うけんど、引っぱたきつけて、殺して、そこさ蓆かぶせておいた」
 と言うたと。
「この野郎、何も親でも子でも逃がさずとれというても、そいつぁ鳥のことで、自分の母(がが)殺したり、まったりさんねごで。んだげんど殺してしまってから仕方ないから、葬式さんなね。葬式するったて、一文の銭もない、困ったもんだ」
 と、思案したあげく、村一番の金持さ行って、盗んでくるより他ない。金持の家の台所さ、金の入ったフクベン下げていたと。夜寝しずまってから、十分五分の兄弟がその家さ行って、フクベン見付けたと。ところが兄は五分さ、
「フクベンの尻(けっつ)押えていろ、オレは鎌で縄切っから」
 と言ったところが、五分はフクベンの尻でなくて、自分の尻押えっだと。
「ええか、五分」
「ええ」
 というもんで、十分が縄切ったところが、そのフクベンが板の間さ落ちて、すばらしい音立てたと。そら泥棒だというもんで、家内の者がみな出たと。十分は賢いから、逃げたげんど五分は逃げ遅れて、便所さ隠れたと。
 年寄のばさまが起きて来て、泥棒さがし助(す)けっかと思ったげんど、尋(た)ねらんねくて、小便して寝っかと思って小便たっで後、掴み鼻したら、隠れていた五分さ引掛ったと。五分は隠れていたの忘っで、
「汚ない、ばさま」
 と言うたと。そこで五分は家の人に抑えられてしまったと。そして段々聞いてみたところ、母(がが)の葬式出す金を盗みに来たと語ったもんだから、
「そげなことなら、にさ(お前)借りに来(こ)んなねごで」
 と、葬式の金もらって帰って来たと。そして十分に、
「兄(あん)にゃ、オラだこういうもんだ、銭など盗むことないもんだ。借りにさえ行くと、こうして貸してくれる」
「お前抑えらっだのか、んじゃ仕方ない、この有難い金で、葬式出すべ。ただ葬式出すええげんど酒もない、オレ、ドブロク拵(こしゃ)うから、お前寺さ行って知らせて来い。寺の和尚さまざぁ囲炉裡ばたに黒い衣着て坐っているもんだ」
 と教えらっで、五分は寺と行ったと。
「今日は、今日は」
 と行ったところが、囲炉裡さ熊猫いて、ニャーンと鳴いて逃げて行ったと。そして和尚さまさ会わねで家さ来てしまったと。家さ帰って、
「和尚さま、何時ごろ来てくれっか」
「なんだか、〝今日は〟と言ったら、ニャーンと逃げて行った」
「そいつぁ熊猫というもんだ。駄目だ。オレが行ってくるから、ドブロクの番してろ」
 と、五分は瓶さ作ったドブロク掻回(かま)し方しった。ドブロクが醗酵して(わいて)、ジブゴブジブゴブジブゴブというから、五分は、
「十分は寺さ行ったし、五分はここさいた」
 と言うた。ドブロクはまたジブゴブジブゴブジブゴブというので、もっと大きい声で、
「十分は寺さ行ったし、五分はここさいる」
 と言っても聞かないで、ジブゴブ言ってるもんだから、五分は木尻(きじり)から大きい板もってきて、瓶をぶち割ってしまったと。そしたら、ドブロクはみな流っでしまったと。十分が家さもどって来て、
「ドブロクはええ塩梅出たか」
 と言うたところ、その有様なもんだから、仕様ないもんだと言ってだとこさ、和尚さま来てしまったと。
「んじゃ、ドブロクで温たまってもらわんねから、風呂でも沸して、温ったまってもらうしかない」
 と風呂焚いたと。そしたらなんぼかぬるいかったと。風呂番してた五分さ、和尚が、入っていて、
「五分、五分、あまりぬるいから、そこらさあるものみな焚(くべ)て、もっと熱くしろ」
 と言ったところ、袈裟も衣もみな焚(くべ)てしまったと。
「こんどはええ塩梅だ」
 と温たまって上ったら、袈裟も衣も何もなくて、褌一つでお経上げて、ほうほうの態で帰って行ったと。ところが大変なお布施忘れたずなた。
「五分、五分、お布施忘れたから、持って行け」
「おい」
 と、戸口から五分は、コシキ棒(雪はき棒)もって追いかけて行ったと。
「和尚さま、お布施忘(わす)っだ」
 と呼んだもんだから、この寒いのに、褌一つでお経上げて、お布施も貰わねでいらんね。と待っていたところ、折悪しく、そこは堀の傍で、五分はコシキ棒で堀の水を和尚さまさ掛けて、
「まだ冷(ひえ)ねか(まだ布施ねか)まだ冷ねか」
 と、とうとう和尚さまを殺してしまったと。んだから、馬鹿さつける薬ざないっけと。とうびんと。
(椚塚 佐藤宇之助)
>>なら梨とり 目次へ