(3)酒の只呑み

 左平という人はトンチで、人の酒を年中呑んでっから、
「今日は、あの野郎嵌(は)めないで、小屋で酒呑みしろ」
 というわけで、藁仕事明けに、藁しどきに、左平さ教えねで、蔵の戸びっしり閉(た)てて、肉だの魚だの買込んで酒呑みしったんだと。
 ところが左平は知ってたもんだから、
「野郎べら、俺どこ嵌(は)めない気だな。よし、嵌めないごんだら、また只で呑んで呉(く)れんなね、んだげんど、なじょしてこの蔵に入ったらええがんべ」
 左平、味付けたと。
「やーい、こぼれっから、開けて呉(け)ろい」
「なんだ嘘ばつかして、開けろなて」
「ほんによい、零(こぼ)れっからよい、何にもなくて、一升枡さ酒買って来たんだず。零れっから開けて呉(け)ろ」
 野郎べらも、とんと本気したと。
「常に只ばっかり呑んでいるから、今日は一升買って来たどこがれ」
 と、蔵の中、ガラッーと開けたと。そしたら、何も買って来ねずだい。
「いやいや、寒くて涙こぼれっず」
 と蔵の中さ入って行ったと。
「いや、あそこで夫婦喧嘩みてきた。いやいや、妻(がが)が親父(夫)にぶんなぐらっじゃらば、妻(がが)怒って火箸持(たが)って、親父の頭くらすけっどこ、親父ぁ、何もないもんだから、ちょっと鍋の蓋とって、こう受けたのよ」
 と、鍋の蓋とって頭にかざしてから、
「あらら、うまいことしったな」
 と鍋の中を見て、とうとう左平に呑まっだけと。
(椚塚 佐藤宇之助)
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