(8)桑こき左平が来たと。「旦那、桑持(も)した。買っておくやい」 「なんぼだ。桑」 「なんぼでもええごで、なあに、ええようにええごで。オレぁ桑こき賃さえもらうとええなだ」 と旦那に左平が言うたど。桑のこき賃なんて、そんがえ安くさんねし、当たり前に買ってやったと。そしたれば、次の日見たれば、自分(われ)の家の畠の桑こいていたったと。 「なえだ、オレの家の桑こいて持って来たのんねが」 「んだから、桑のこき賃さえもらえばええと言うたどれ」 と言い逃がれたんだと。 左平ばなしは、上野の稲葉平次という人の奇行の話だという高橋照太郎さんの教えがあったが、「とんち話」である。「この辺では彦一でなくて左平と言うんだ」という川井弥右衛門さんの話もあり、どちらにせよ、笑話として取扱ってよいものであろう。面白い話であるが、彦一とんち話にくらべると、昔話としてのふくらみがない。しかし八話もあることがわかったのは大きい発見と言えるだろう。年代的に言って古いものではないことが、内容から理解できる。 |
(上野 高橋照太郎) |
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