16 ねぼけ先生  ― 寝太郎話 ―

 寝てばかりいて、隣で正月の餅搗きしているのに、自分は餅搗かんねがったと。
 ねぼけ先生は醤油持(たが)って行って、隣の天井さ登って忍んでいて、餅搗きしった臼の上さ、ネズミのまねして、醤油、パタパタ落してやったと。
「ネズミの小便で、この餅食わんねから、ほんじゃ、隣のねぼけぐらいだらば、餅も搗かんねで、餅も食わんねべから、持って行って呉れんべ」
 と、呉れて来たと。

 寝太郎話を「ねぼけ先生」と言うのは、この地方独特の言い方と思われる。正月の餅を猫に紅をつけて餅の上に転がらせるという話で白鷹町で採集されているが、それと比較すると、ニュアンスにとぼしい気がする。
(大橋 川井弥右衛門)
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